私にとっての憲法 岩波書店編集部編

*赤川次郎より

「旧ソ連の時代とは何だったのか」を、チェルノブイリなどの
負の遺産を通して追求し続けている、ベラルーシの作家
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ

日本を訪れ「フクシマ」とそこを追われた人々、
危険を承知でそこへ帰る人々を取材したアレクシエーヴィチは
大学の講演の中で、「日本には抵抗の文化がない」と語った

この指摘の重さを、私たちはしっかりと受け止めなければならない

*半藤一利より

第9条の存在意義をいうなら、よくいわれるように、
現実の事実として戦後70年わが日本は1度も戦火を交えることがなかったこと
日本の正規軍の兵士が他国の領土で人を殺していない
これは先進国の中で極めて例外的で誇っていい偉業である

その第9条を廃絶するということは、軍隊を作って
「人の喧嘩を買って出る権利」
「いつでも、誰とでも、したいと思ったら戦争をする権利」
(内田樹氏の言葉)をもちたいということである

平成28年5月号の「世界」に載った東大名誉教授堀尾輝久氏の論文
堀尾氏が発掘した憲法調査会会長の高柳賢三とマッカーサーの往復書簡で
高柳氏の「幣原首相は、新憲法起草の際に、戦力と武力の保持を
禁止する条文を入れるように提案しましたか」という質問に
マッカーサーは「戦争を禁止する条項を憲法に入れるようにという提案は
幣原首相が行ったのです」と明快に答えている

*高藤菜穂子より

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の報告によると
紛争や災害によって家を追われる人の数は2015年に6530万人にのぼり
過去最多を記録。地球上の113人に1人が難民か国内避難民、
もしくは庇護申請者というかつてない深刻な状況だ

自衛隊がPKOで派遣されている南スーダンも「民族大虐殺の瀬戸際」と
言われており、人口1200万人の内150万人が難民で
政府軍も含めて虐殺を起こしかねないと懸念される中
誰に助けを求めればいいのか

*伊東光晴より

一歩離れて第9条を見れば、このような理想主義が日本の過去に
なかったわけではない。
田中正造は「世界海陸軍を全廃すべし」と書いている
明治の世にこのような発言は稀有である

*鹿島徹より

日本国憲法施行60周年の2007年ごろ、母方の祖父・鈴木安蔵が
にわかに脚光を浴びた
高野岩三郎氏主導の憲法研究会で祖父が取りまとめ
敗戦の12月に7人の署名で公表した「憲法草案要綱ー憲法研究会案」が
翌年2月作成のGHQ草案に影響を与えたのだという
祖父を主人公とする映画まで制作されるにいたって
「遺族」の1人として当惑したのを今でもよく覚えている

祖父の書き残したものを改めて読み直すと「直接影響を与えた」とする
見解は退けている。
独立に研究して到達した自分たちの見解が、GHQ草案を起草した人々の
すでに到達していた結論と「本質的に一致した」
これは「おしつけ憲法」論に対する祖父の反論であった(憲法学30年)
現在の若い憲法史家の研究によってもおおむね裏付けられる見方のように思う