青空に飛ぶ 鴻上尚史より その2

・大変な状態の中で強さを見せた人はたくさんいるだろう。
でも、ぼくが友次さんに惹かれるのはそれだけじゃない。
その時、答えがポンと浮かんで、思わず声が出た。
日本人らしくないからだ。そうだ。そうなんだ。
友次さんはぼくのイメージする日本人と違っていた。
ぼくの知っている日本人は大きなものに従って、じっと黙っている人達だ。
独りでは絶対に多数とは戦わない。戦う時はいつも集団だ。
アメリカのクラスメイトみたいに、いじめる奴に独りで戦いを挑む奴は誰もいない。
空気を読んでムードに流されてみんな周りの顔色をうかがう。
そして、黙って教室の空気に従う。
それは先生も同じだ。空気に対して誰も独りで戦うことはない。
雨の日に飛んだ松田が、本当はいじめられていたなんて、
どの先生も薄々気づいていたはずだ。
でも、誰も言い出さない。独りで学校と戦う人はいない。
友次さんのように大きなものに独りで戦う人はいない。
誰も独りでは反抗しない。誰も単独では抗議しない。
誰もただ一人では文句を言わない。それが日本人だ。
そして、ぼくも、そんな日本人そのものだ。
松田の地獄に独りではなにもしなかった。なにもできなかった。
でも、友次さんは独りで反抗した。
猿渡参謀長の命令に背いた。
国家に従わなかった。
すごい。ただ、すごい。日本人でもこんな人がいるんだ。
自分で見つけた答えに自分で驚いた。そして納得した。
ぼくが友次さんに強烈に惹かれる理由はこれだったんだ。