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 七〇代半ばの女性Rさんの悩みはかつて住んでいた家と荷物のことです。ひとり娘はピアニストで、アメリカの音楽大学に留学し現地で知り合った男性と結婚。一女をなし、幸せに暮らしています。娘は四,五年に一度くらい家族で遊びに来ることはあっても、将来日本で生活することはないと断言しています。逆にRさんにアメリカでの同居を勧めてくれます。孫に会いたい気持もあり数年前に一度渡米しましたが、英語は話せないし、ひとりで外出するのも怖い、乗り物事情もわからない、孫とも話が通じない。結局二週間で疲弊してふらふらになって日本に帰り、外国暮らしはもうこりごりだと思っています。

 Rさんがある湖のほとりにある有料老人ホームに入ったのは、夫が亡くなり、ひとりではさびしい、娘は外国にいるのでいざという時、頼りにならないと思ったからです。Rさんは明るい性格で、話の合う友だちもできて元気そうに見えるのですが、実は深刻な悩みを抱え
ていました。

 施設からは入居時に、必要なものだけ持ってくればよいといわれ、身の回りのものをまとめ、旅行に行く感覚で入居しました。食事はシェフのつくってくれたおいしい料理をダイニングルームで食べ、温泉もある。趣味のクラブもいろいろあり、陶芸と、水彩画のクラブに入り、気の合う友人もできて言うことなしだと思っていました。けれどこうして新しい暮らしに慣れると、今度は残してきた家のことがだんだんと気になり始めました。

 三〇数年前に夫が設計して建てた家でその家は、あちこち傷みが出て、リフォームの必要があるのはわかっています。しかし誰も住まない家にお金をかけるのも無駄だし、とても人に貸せる状態ではない。娘に相談すると、家を壊して土地を売ればいいと言うけれど、夫との思い出の詰まった家を壊すのも忍びない。また家の中には家具、日用品、衣類などがそっくり残っている。

夫の遺品もそのまま、仏壇もそのままなのが一番気になること。何とかしなければと思って戻った折に、夫の衣類を出して並べてみたけれど、これは夫の誕生日に自分がプレゼントしたセーター、これはあのお芝居の時に着ていたジャヤケット、しまいにはかかとに穴の開いた靴下まで、夫の分身のような気がして捨てられない。自分の洋服も、お花見の時に着ていたカーディガンとか、娘の高校の卒業式に着ていったスーツとか、出して並べて、ためいきばかりでまた元に戻す始末。

 このような状況を説明しながらRさんの話は続きます。
「こんなことを繰り返していてもどうにもならないと思っています。頭ではわかっているのに、行動できない自分が情けないのです。いっそ火事にでもなればあきらめもつくのにと思います。こんなことを言うと火事や災害で家を失った人々に申し訳ないのですが、私の正直な気持ちなのです」

このままではいつまでたっても解決には至りません。自分でもわかっておられるのでしょう。そこでわたしは申し上げました。
「本当に解決したいのであれば決断することです。火事になれば、とまで思いつめておられるのなら、いっそ火事になったと仮定して、Rさんが火事場で持ち出そうと思うものだけ残し、後は潔く処分することです」
ようやく決心が着いたのか「そうします」とRさんはうなずかれました。

『老前整理の極意』2018年 NHK出版 ラジオ講座「こころをよむ」テキストより

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