リアリズムと不思議な世界

日 時 平成30年10月20日(土)13時30分〜15時30分
 中上健次の小説「枯木灘」と「奇蹟」の紹介がありました。
 彼は1946年に和歌山県新宮市に生まれましたが、結構家庭は
複雑であったようです。
 1959年に異父兄・行平が自殺するのですが、これが彼の最大
の文学的主題となります。
 なお、1976年には「岬」で芥川賞を受賞しております。
 さて、前半に紹介された「枯木灘」ですが、これは中上健次が
主人公・秋幸とオーバーラップいたします。
 この小説の骨子は、親族間の殺人(秋幸が異母弟・秀雄を殺害)や近親相姦(秋幸と異母妹・さち子)等と、私的な要素(前述の兄の自殺)を交差させたリアリズムの傑作です。
 この「枯木灘」を書き終えた頃から、彼は被差別部落の出身であることを前に出すようになります。
 そして後半に紹介されたのが、「奇蹟」という小説です。
 主人公(イクオ)のモデルは、新宮で年上の幼なじみだったヤクザの若頭・西太一で、組織暴力団の抗争で亡くなった人です。
 この小説のかたりは、オリュウノオバ(被差別部落の産婆という設定)で、その内容は被差別部落の三代にわたるヤクザの戦後史です。
 被差別部落の青年たちの生を幻覚の中で語る不思議な作品でした。