「今昔物語」と「鼻」

日 時 2019年11月29日(金)14時〜15時30分
 芥川龍之介の作品には「典拠物」が多いという切り口の講座が
ありました。
 今回は「今昔物語」を典拠にした芥川の作品「鼻」をご紹介して
いただきました。
 「今昔物語」は平安時代末期の説話集で、仏教的・教訓的傾向
の強い生き生きとした人間性が描かれているものです。
 また芥川の言によれば、「今昔物語」は「野生美の美しさがあり、
優美とか華美とかに最も縁の遠い美しさがある」・・・・としています。
 「今昔物語」には多くの『笑』をもたらす物語があり、笑われる側は窮地に陥ります。
 たとえば、ある舎人が美しい女をみて言い寄ったところ、その女は自分の妻だった・・・という話しです。
 このような視点で芥川の作品を見てみますと、「鼻」という作品の典拠は「今昔物語」巻5第20で、鼻の長い和尚が食事時に邪魔になるので弟子に鼻を持ち上げさせますが、その弟子がくしゃみをして鼻を粥の中に落とし、和尚は「もし相手が高貴な方だったらどうするんだ」と怒りますが、弟子は「こんな大鼻の人は他にいません」と反論して、これを聞いた他の弟子達は大笑いした・・・です。
 このように痛いところをついて皮肉を笑いに代えるわけですが、芥川はこれをベースにしながらも、人間の心理を描いています。
 すなわち、「鼻の長さを気にする」「自分より鼻の長い人を探しては安心する」・・・等々です。