コンビニやスーパーのパンがカビない理由
ホントが知りたい食の安全 有路昌彦
こんな実話があります。
ある食品リスクの専門家の講演で、会場から質問がありました。「コンビニやスーパーで売っているパンがすぐにカビないのはなぜですか。家で作ったパンはすぐにカビます。防腐剤がいっぱい使われているのですか?」と。
確かに、必要な食品保存料を正しく使えば、使ったものの方が何万倍も食品リスク(この場合はカビや腐敗による食中毒のリスク)を下げます。
実際は、この質問への回答は、「あなたのキッチンがパン工場の何倍も汚いからです。パン工場は菌が付かないのでそもそも袋詰めされた後はカビたり腐ったりしにくいのです」というものでした。それくらいに一般のキッチンにはたくさんの菌がいるのです。
■「危害要因」は人の手と調理器具
具体的にはどうすればよいのでしょうか。HACCPでいう「一般衛生管理(SSOP)」が参考になります。
まず調理する手をしっかり洗い、調理の前にアルコール消毒をします。間違っても調理中に顔を素手でかいたりしてはいけません(これがなかなか難しいのですが)。
そして調理器具はしっかり消毒します。アルコールスプレーで十分です。これでかなり殺すことができます。
次に、洗い物をため込まない。これはとても重要です。洗い物をシンクにため込んでいると、わずか数時間で大量の菌が繁殖しています。
一度繁殖すると、洗っても食器のあらゆる部分についたままになってしまいます(多孔質の隙間などに残ります)。洗い物をするたびにシンクを洗剤(食器用洗剤でよい)で洗うと、菌の元を断つことができるので効果的です。
冷蔵庫を定期的にアルコールで拭くのも効果的です。
そしてHACCPの考え方では「危害要因」を特定する作業をします。ご家庭でこの「危害要因」は何になるかというと、「調理する人の手」、「調理器具」です。
「これが菌だらけにならないよう消毒する」のが有効な対策になります。これに加えて保存状態を考え、冷蔵庫なら1日以内、常温なら通常6時間以内といったように消費期限を設けることも大事です。
つらつら書きましたが、結局「手を洗う」「調理器具をきれいにしておく」に尽きます。簡単なようでいて、ちゃんとできていないことが多いのです。
有路昌彦
近畿大学農学部准教授。京都大学農学部卒業。同大学院農学研究科博士課程修了(京都大学博士:生物資源経済学)。UFJ総合研究所、民間企業役員などを経て現職。(株)自然産業研究所取締役を兼務。水産業などの食品産業が、グローバル化の中で持続可能になる方法を、経済学と経営学の手法を用いて研究。経営再生や事業化支援を実践している。著書論文多数。近著に『無添加はかえって危ない』(日経BP社)、『水産業者のための会計・経営技術』(緑書房)など。