腸内フローラは健康であれば短期間ではそれほど大きく変化しない

■腸内フローラは健康であれば短期間ではそれほど大きく変化しない 

下のグラフを見てほしい。これは健康な20〜30代の男女8人の腸内フローラを構成する腸内細菌の種類と割合を示したものだ。このグラフからも明らかな通り、腸内フローラは人によってかなり異なる。

健康な20〜30代の男女の腸内フローラの分析結果(メタジェン調べ)。便秘や下痢などのお腹の悩みを特に抱えていない成人8人について調べた結果でも、人によってこんなに腸内フローラの構成が違う

 福田さんによれば、たとえばある人の腸内にはビフィズス菌が10%いるのが理想だとしても、別の人の腸内にも同じように10%いることが理想だとは限らず、人によって理想の腸内フローラ構成も異なるという。

 「腸内細菌はさまざまな種類が共生し、生態系をつくっています。助け合う一方で、生存競争も繰り広げ、その結果として、その人その人に最も適した腸内細菌のタイプだけが腸内に生き残っているんです。それは、その人が生きてきた年数

をかけて培ってきたもの。

だから、人によって腸内フローラの構成は違いますし、さらに言うと、外からヨーグルトやサプリメントなどに含まれる菌がパッと腸内にやってきてもその多くは生存競争に負けてしまうのです」

 つまり、そんなに簡単に外来の菌は腸にすみつけないということだ。

 だが、落胆することはない。「腸内細菌は私たちが食べたものをエサにして生きているので、健康にいい働きをする腸内細菌が好むものを食べ続ければ、腸内フローラを少しずつ改善することはできる」(福田さん)からだ。

●食事由来の乳酸菌やビフィズス菌は食べてすぐ腸に定着するわけではない。
●しかし、これらをコンスタントに腸に送り続けると、日々の腸内環境を整えることはできる。

 つまり、“食べ続ける”のがポイントだ。しかし、ヨーグルトひとつとっても種類がいろいろありすぎて、何を食べればいいのか迷う。食べ続けたはいいが的外れにならないか心配だ。

 これについて福田さんは、次のように話す。「現段階では、おなかにいいといわれているものを実際に食べてみて、自分でいいと実感できることを続けてみるしかありません」。

■近い将来、科学的根拠に基づいた食習慣アドバイスが可能に!?

 話を元に戻すと、今なぜ腸内フローラなのか。腸内フローラのことが分かると、私たちにとってどんないいことがあるのだろうか。

 実は福田さんは慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)発のベンチャー企業メタジェンを2015年3月に設立、その代表取締役社長CEOを務めている。

メタジェンは人の便を分析することで、腸内細菌やそれらが作り出す代謝物質が私たちの体にどのような影響を与えているかを解明、それらの情報を健康維持に役立てるヘルスケア事業につなげようとしている会社だ。

取材にご協力いただいたメタジェンの方々。

左より主任研究員の村上さん、CEOの福田さん、技術顧問の井上さん。パソコン画面上の副社長CTOの山田さんはオンラインで参加してくれた

 「私たちは今、どういう腸内フローラの人が、どういう食べ物を食べると、腸内環境がどう変化するかというデータを集めています。日本人の腸内環境の特徴をいくつかのクラスターに分けることができれば、そのクラスターごとに、腸内環境にいい可能性の高い食べ物をお薦めすることができる。

こうした科学的根拠に基づいた食習慣改善アドバイスの提供を、2年後を目処に始めることを目指しています」(福田さん)

 福田さんたちは、便から腸内フローラを含む腸内環境を網羅的に解析し、その人に合わせた健康情報をフィードバックすることで腸内環境を適切に制御することを“腸内デザイン”と呼んでいる。

 「食べ物が健康を維持するために大切なことはみなさん体感としてご存じだと思いますが、ちまたにあふれる情報に惑わされているのが現状。正しい情報を提供し、その結果どうだったかをきちんと評価し続けていけば、結果的に病気予防につながるんじゃないかと。

将来的には病気ゼロ社会を実現したいと思っています」(福田さん)
 大腸がん、大腸炎、肥満、糖尿病、動脈硬化、花粉症、食物アレルギーなどの発症は、腸内フローラのバランスの乱れと関連があると考えられているため、この“腸内デザイン”は非常に注目されている。

 次回は、誰もが気になる「腸と病気、健康の関係」について、さらに詳しく解説する。
(ライター 村山真由美)

■この人に聞きました

福田真嗣(ふくだ・しんじ)さん
 メタジェン代表取締役社長CEO/慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。1977年生まれ。明治大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)。学位取得後、理化学研究所研究員として勤務し、2012年より慶應義塾大学先端生命科学研究所特任准教授。

2011年にビフィズス菌による腸管出血性大腸菌O157:H7感染予防の分子機構を世界に先駆けて明らかにし、2013年には腸内細菌が産生する酪酸が制御性T細胞の分化を誘導して大腸炎を抑制することを発見、ともに「Nature」誌に報告。2015年、株式会社メタジェン(慶應義塾大学と東京工業大学のジョイントベンチャー)を設立。著書に『おなかの調子がよくなる本』(KKベストセラーズ)。

http://blogs.yahoo.co.jp/bio_kitchen_ray