西行法師の魅力

・月日:1月12日(木)午後1時半〜3時半
・会場:すばるホール(富田林市)
・講師:下西 忠先生(高野山大学教授)
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西行の生涯(概観)
・元永元年(1118)〜建久元年(1190)。俗名:佐藤義清(のりきよ)。法名:円位、西行、大宝房と号した。歌聖として後世に大きな影響、芭蕉も影響を受けた一人。
・23歳の時、院の北面の武士の身分を捨て、妻子も捨てて出家。
・[高野山時代:約30年間](33歳〜63歳頃)高野に生活の本拠を置き、吉野・熊野などで活動。入山の直接要因は、落雷による高野の大火(1149年)。高野復興の目的で入山。
・[西行の旅]…吉野、伊勢に止住し、「紀州・奥州の行脚」(29歳の頃)。「四国の行脚」(50歳頃)、「再度、奥州の行脚」−鎌倉の頼朝を訪ね、平泉の藤原氏を訪ねる」(69歳の頃)
・[西行にまつわる物語]…西行物語、謡曲の「西行物」、上田秋成の『雨月物語』など。
・[歌集]…勅撰集(新古今集に94首など入集)、『山家集』、『西行上人集』、『聞書集』
・河内の弘川寺で、文治六年(1190)二月二十六日入滅。享年73歳。


西行歌
(1)教科書に載せられている西行歌
★「こころなき身にもあはれは知られけり鴫たつ沢の秋の夕暮れ」(新古今集 秋・362)
(歌意)(世捨人である私が感じとったこの感動。鴫(しぎ)の群れが飛び立った羽音のとどろく沢辺に、秋の夕暮れが寂しく訪れる。)(高校の教科書)
★「道の辺に清水流るる柳かげしばしとてこそ立ち止まりつれ」(新古今集 夏・262)
(歌意)(道のほとりに清水の流れている柳の木陰よ。しばらく休もうと思って立ち止まったのであったが、あまり涼しいので、つい時を過ごしてしまったことだ。)(中学校の教科書)…後世、栃木県芦野にある通称「遊行柳」。芭蕉も「奥の細道」で詠んでいる。
(2)西行の自讃歌
★「風になびく富士の煙の空に消えてゆくへも知らぬわが思ひかな」(新古今集 春・77)
(歌意)(風に吹かれてなびく富士の噴煙は空に消えて、どうなっていくかもわからない。そのように、私の思いもこれからどこへたどり着くのかわからない。)…慈円は、西行がこの作を第一の自讃歌(代表作)と告げた、として伝えている。「思ひ」の「ひ」に「火」をかけて、「煙」の縁語。(注)西行の時代、富士山は時折、煙を上げていた。
(3)多くの人に知られている歌
★「願はくは花のもとにて春死なむその如月のもち月のころ」(山家集 春・77)
(歌意)(わたしの望みは咲きほこる桜の下で春に死ぬこと。あの釈迦が入滅された二月の望月のころに。)…西行は、桜の歌は多く詠んでいる。この歌の作は、死のずっと以前であるが、2月16日の没時と一致したことに、にわかに有名になった一首。


(4)西行歌の鑑賞
(*右の写真は、岡山県玉野市渋川海岸の西行法師像。西行は二度、岡山を訪ねている。)
★「鈴鹿山うき世をよそに振り捨てていかになりゆくわが身なるらん」(山家集 雑・728)
(歌意)(なりふりかまわず浮き世を振り捨ててきたが、さてこれから我が身はどうなるのだろう。)…出家をして間もない頃に詠んだ歌。鈴鹿山で行く末を自問してみると心細い。この人間的真実が哀感を広がらせる。「振り」、「なり(「鳴り)を掛ける」は「鈴」の縁語。
★「なにとなく春になりぬと聞く日より心にかかる吉野の山」(山家集 雑・1062)
(歌意)(春がたったと聞いた日から、何となく吉野の山の桜のことが気にかかるよ。)…花(さくら)の歌から抜粋。
★「ながむればいなや心の苦しきにいたくなすみそ秋の夜の月」(山家集 秋・367)
(歌意)(ながめていると、何とも言えず心が苦しくなることだ。だから秋の夜の月よ。あまり明るく澄みきらないでくれ。)…月の歌から抜粋。

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**あとがき**
・西行は、生涯2千首を越える歌を残している。生涯にわたって、「花」と「月」を愛し、歌い続けた。西行の歌は、宮廷歌壇から離れていた素人歌人。専門的な型に、はまった物の見方をしていない。公的なものは少なく、私的な感懐が多い。
・俗語的発想が少なくない。自己流の表現、詠みっぱなしの作品が多い。しかし、自分を詠み、心を詠んでいる。
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平成28年後期講座(文学・文芸コース)(9月〜1月:全13回講義)は、1月12日で終了しました。
講師の先生並びに受講生の皆様に厚く御礼申し上げます。
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