国宝『源氏物語絵巻』を読み解く〜御法巻を中心として〜

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・日時:9月14日(木)午後1時半〜3時半
・会場:すばるホール(富田林市)
・講師:浅尾広良先生(大阪大谷大学教授)
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**国宝『源氏物語絵巻』について**
国宝『源氏物語絵巻』は、紫式部が『源氏物語』を書き綴ってから約百年後の平安時代後期(12世紀前半)に制作された現存する最古の絵巻である。現在は保存のため「絵」と「詞書」(ことばかき)を切り離して額装され、絵19面、詞書37面が、徳川美術館と五島美術館に所蔵されている。『源氏物語』の華やかな舞台を描いたこの絵巻は、現在では色が褪せ、剥落が進み、当時の面影はない。「源氏物語絵巻の復元プロジェクト」は、1999年に「柏木(三)」の復元を行ったのがはじまりで、2005年までにすべての絵巻の復元が完成した。

◇国宝『源氏物語絵巻』を読む解くは、平成25年3月に始まり、今回で第10回です。
①蓬生巻、②関谷巻、③柏木(一)、④柏木(二)、⑤柏木(三)、⑥横笛巻、⑦鈴虫(一)、 ⑧鈴虫(二)、⑨夕霧巻、 ⑩御法巻
*講義では、「源氏物語」を読み、『源氏物語絵巻』の現存するものと、復元したものとを見比べて鑑賞します。

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(%エンピツ%)講義の内容
第四十帖「御法巻」(みのりのまき)
・主要人物の年齢…光源氏(51歳)、紫上(43歳)、明石中宮(23歳)、夕霧(30歳)
「この巻は、源氏の最愛の妻、紫の上が終焉する物語。…「紫の上は大病の後すでに四年が経過し、残り少ない命を仏道に捧げるのが望みであった。しかし、源氏は紫の上の出家を許さなかった。夏になると、紫の上の衰弱は進み、明石中宮は養母の紫の上を見舞う。待ちわびた秋がきたが、紫の上の病状は急変した。風の強い秋の夕暮れ、明石中宮が紫の上の病床を訪れて、源氏も加わって歌を詠み交わす。その直後、紫の上は容態を崩し、源氏と中宮に見守れながら、消えゆく露のように世を去ってしまった。…源氏は、悲しみのあまり、紫の上から離れようとしない。夕霧が駆けつけて代わりに万事の世話をした。」
**右上は、現存する『源氏物語絵巻』御法巻で、衣服などの色は褪せたり、剥落している。銀泥も剥落している。


紫上の病状重く、出家の志も遂げ得ず。
紫の上は、随分前から重態ではないが、健康がすぐれず良くなりそうな様子もない。源氏のご心痛はこの上もない。紫の上は、出家をしたいと口に出してもおっしゃるが、源氏はどうしてもそれをお許しにならない。
紫上、源氏・中宮と決別の後、死去する。
待ちかねた秋になっても、紫の上の容態は思わしくなくい。明石中宮は、養母紫の上の病床を見舞うために、特に許しを得て里下がりしてきている。八月十四日、源氏と明石中宮に看取られながら、二条院で紫の上は、露のように消えていった。
源氏、夕霧に紫上の落飾のことをはかる
涙にむせぶ源氏は、せめてもの供養にと、夕霧に紫の上の落飾(髪を削(そ)ぐこと)の差配を命じます。
◆即日葬儀を行なう。源氏、出家を志す。

■亡くなっていく情景(比喩)
・藤壺−「燈火(ともしび)の消えいるやうに…」
・柏木−「泡の消えいるやうに…」
・紫の上−「消えゆく露の心地して…」

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国宝『源氏物語絵巻』〜御法巻〜(復元模写)
右の絵巻は、「御法」を復元模写したものです。
・画面は、吹抜屋台の構図(屋根・天井を省き、やや上方より見下ろすように描写。外の風景と室内との対比を描く−3分の1が庭(前栽))。
・場所は、二条院の紫上の邸の廂の間。
・3人描かれている。…几帳を背に、脇息にもたれる紫上、対座する源氏、中央の几帳の陰(後ろ姿)は明石中宮であろうか。
・銀泥を刷いて、月光に照らし出された前栽のありさまを描き出している。萩や桔梗などの秋草が咲き乱れる中を、ススキがおりからの風を受けて、大きく波打っている。