講座日誌(文学・文芸)①…森鷗外と〈京都〉—『高瀬舟』の世界—

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日時:3月7日(木)午後1時半〜3時半
会場:すばるホール(富田林市)
講師:瀧本和成先生(立命館大学文学部教授)
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作品の梗概
・冒頭文…「高瀬舟は京都の高瀬川を上下する小舟である。徳川時代に京都の罪人が遠島を申し渡されると、本人の親類が牢屋敷へ呼びだされて、そこで暇乞いをすることを許された。(以下、省略)」
あらすじ…「寛政の頃、京都町奉行所の同心、羽田庄兵衛は、一人の罪人も護送を命ぜられる。名は喜助。弟殺しの罪人である。一般的に高瀬舟に乗せられる罪人たちは、一晩中涙を流して己の仕業を悔やむのだが、喜助は違っていて、顔は晴れやかで愉しそうに見える。聞けば、これまで骨身を惜しまず働いても現金で物を買って食べることもままならなかったのに、入牢中に働かず二百文も頂き、初めて財産を持ったという実感を味わうと共に、そう思うと愉しいのだと言う。さらに、弟殺しについても病を苦に自殺を図ったが死にきれなかった弟の頼みを聞いた末の行為だったという。それを聞いた庄兵衛は、財産というものの観念(知足=足るを知る)と安楽死(苦しんでいる弟を楽にさせる)について思いを馳せる。」

◆作品構成
・森鷗外は、1881年(明治14)に東大医学部卒業、陸軍軍医となり、明治17年から21年にかけてドイツに留学し、衛生学など学ぶ。明治40年(1907)陸軍軍医総監(軍医の最高位に就く)。『高瀬舟』(1916年初出)。
・作品の素材・題材…「高瀬舟」は、江戸時代の神澤貞幹『翁草』「流人の話」を題材。
・作品が書かれ当時の統制から逃れるために、江戸時代を描く。弟殺しを明記した(長男殺しは死刑。弟殺しは遠島になる物語。)(以下、省略)