優しさのシャワーについて

優しさのシャワーについて
 
(以下は2009年8月22日、「福知山市認知症予防の会」主催の「ゲームリーダー養成講座」五回シリーズの第4回め講演「優しさのシャワーについて」を少し修正したものです。
 (高林実結樹)

*スリーAの真骨頂は優しさのシャワー
*具体的な行為のこと
*優しさのシャワーが必要なわけ
*ゲームの中での優しさのシャワー
 ・共感を伝える
 ・ゲームの中では
 ・良くなってからの保持

* スリーAの真骨頂は優しさのシャワー

私たちが全国に広げたいと願っているスリーA増田方式の真髄は、“優しさのシャワー”にあります。

 教室が無い地域ではお仲間さんと一緒に楽しむゲームはできませんが、優しさのシャワーだけでも成果があがる体験談は、第1回の講師・福井恵子から報告があったので判って頂けたと思います。

教室で複数の人たちに、シャワーのように優しさを降り注ぐのは、「こんにちは」から「さようなら」まで。相手が背を向けても笑顔でお見送りが続けられるようになりたいものです。

目の前だけの笑顔ではない、本心からの笑顔を絶え間なく、ということはむつかしいようですが、不思議とスリーAに浸っていると出来るようになります。誰でも本来は優しさを持っていますから心配ありません。スリーAの感化力は強いのです。

* 具体的な行為のこと

スリーA方式の「優しさ」とは、性格的な優しさとは少し違って、具体的な行為です。行為を意識して積み重ねると、性格にまで感化がおよぶように思います。
具体的にどのように、ということを知ってください。

私たちは認知症予防教室を三つのランクで考えています。

①認知症発病者への“重度化予防・くいとめ・引戻し”
②脳機能低下段階での“発病予防・引戻し”
③一般の方への予防

①の場合では在宅生活への復帰や、職業復帰の実例を第1回でお話しました。

②の場合も生活意欲の改善で、行動や家庭生活、姿勢までがよくなって家族もろとも喜ばれる実例を、第1回でお話しました。

③の場合も人柄がかわったように自然に優しくなり、社会全般の幸福を願うように視野が広がって市民運動を始められ、市の事業として認知症予防教室が実現した例を、これも第1回でお話しました。

今日は②の教室を始められる上で行っていただきたい優しさのシャワーの、具体的な方法についてお話します。

スリーAの脳活性化には二つの大きな要素があります。本人を癒し支えることと、脳のリハビリを行うことの二つです。どちらが欠けてもうまくいかないと言われています。たとえば“こより”(紙縒り)でも、二本を縒り合わせた勧進縒りが抜群に強いのと同じと言えるでしょう。

優しさのシャワーと脳リハゲームが一つのものとなることで、成果は高くなります。

* 優しさのシャワーが必要なわけ

 認知症予防に癒し=優しさのシャワーが必要な理由は、本人が寂寥感にうちひしがれておられるからです。

肉親との別れ、職業を失う寂しさ、記憶力も気力も体力も衰えていく心細さ、将来に対する不安の増大、人との接触を避け、孤独感を強くしている方が多いのです。誰も理解してくれない、ウッカリミスを取り繕っても逆効果、家族からもバカにされ叱られてばかり、誰もやさしく付き合ってくれない…

 そういう気持ちの時に、教室では皆から笑顔で接してもらえる…、温かい声をかけてもらえる…、凍った心がほのぼのと息づいてきます。萎縮した気持ちが潤うと、回をおって人柄が温かく優しく変わられます。二対一で配置されたスタッフが笑顔で接し続ける優しさのシャワーが第一に必要なのです。

向き合った時だけの笑顔ではシャワーになりません。シャワーは水鉄砲ではありません。この違いが成果につながります。

* ゲームの中での優しさのシャワー

 教室では到着してスタッフに迎えられ、座についてお茶を飲んで一息つき、近況などを話し合って、心がほどけて来たところで、ゲームの開始となります。

 ゲームでは失敗しても隣に座っているスタッフが「私も間違えましたわ。難しいですね。間違っても好いのですって」などと言って、肩や膝をポンポンと軽くたたいたりします。そのことで、自分だけがダメ人間かと思っていたが皆も一緒なんだ〜、と安心できます。この安心感はやがて自信につながるようになります。

ゲームは間違ってもOKと言うのですが、やはり最初の「1から10」が綺麗に出来るようになると嬉しく、ホンモノの笑顔が出てきます。良く出来たときはスタッフやリーダーが即座に褒めます。何でも褒めます。「上手にできましたねえ」「皆さん綺麗に揃いましたねえ」と褒めます。ウソで褒めるのではありませんから、皆が一緒に嬉しくなって自信と笑いが増えていきます。

・共感を伝える

失敗されたらスタッフはすかさず「私もよ」と言って同列意識を持っていただく。よく出来たらすかさず褒める。皆が一緒に失敗するからこそ安心して爆笑できる。笑いの効用がグングンと目に見えるように沸いてきます。

二対一のスタッフ配置は必要な人数です。いつも一緒に隣にいますよ。いつもあなたのことを気にかけていますよ。よかったですねえ。よくできましたねえ。ああむつかしかったですねえ。…というように自分が思っていることをスタッフも同じに感じているのだと確認したら安心が出来る。教室にいる事でやすらぎ、自然に楽しくなるのです。

 スタッフは両隣の二人に配慮するのですから、言葉を掛けやすいのです。ゲームの中で一杯声かけをしてください。笑顔で、相手の目を見て、時々手を触れて、話はよく聞く、面倒がらない。受け入れてもらっているという満足感をもっていただく。

 手を握ったり、腕や肩を組んだり、抱いたり、これらの濃厚なタッチは時にはわざとらしく思われて、相手によっては嫌われることがあります。時と場合、その場の判断です。必要な場合も、してはいけない場合もあります。場合によるので、見きわめが大事です。

・ ゲームの中では

 ゲームで大事な優しい関わりとは、べたべたとまつわりつくことではありません。自立していただくのが究極の目的です。ゲームで落ちこぼれないように、スポットライトを当てるように、感謝を言葉で言う。それらはゲームの中だけでなく、教室全体をそのような雰囲気に包むのです。大事にしてもらっているという喜びで、萎縮した心が蘇ります。

認知症は脳の萎縮の前に、心が萎縮していると思います。「私もみんなと同じだわ、捨てたものじゃないわ」という安心感が持てたら元気が出てきます。その気づきから、頭も活発に働き始めるように思います。

 ゲームでの関わりでは、スタッフも一緒に楽しんで笑いあうことが必要で、それは自然にできます。それはスリーAのゲームが本当に楽しくなれるゲームだからです。ですがスタッフは笑い興じながらも、隣の方が記憶力・理解力・判断力が低下しておられることを念頭に置いて、聞こえやすい言葉で、温かい声で、優しく、穏やかにしかも年長者にたいする自然な敬意を忘れないで説明し、褒めてください。子供に接するような態度では、自立心の回復に結びつきにくいのです。

 地域の方言はイキイキした関係を作りやすいです。敬意をもって話すと言っても、場違いな過大な敬語は避けてください。
「教える教室」でなく、細心の注意と努力で「一緒に楽しむ教室」に、軽い日常的な敬語を自然体で入れてください。

 ゲームでは 間違いを人前で指摘しない、 恥をかかせない 一人淋しくさせない 常に声をかける 常に一緒に行動する 数を数えたり、道具を配ったり、受け身でなく行動を誘う ルールの説明が聞こえず理解できていない人を残したまま始めないように、 聞こえやすい穏やかな声でハキハキゆっくり言う、言い間違えず身振りも交えて全員に目配りしながら、全員が共感しあえるように、
失敗しても本人もろとも皆が笑える声かけを、黙っている時でも温かいオーラを発し続けるように、それが優しさのシャワーです。各種のゲームごとの言葉かけ例は、テキストを参照してください。

・ 良くなってからの保持

MMSテストで5点とか7点とか上昇すると、忘れていたお経を自然に思い出せたお坊さんや、毛糸編み物のセーターを何年ぶりかで完成させた女性とか、一人でお留守番が出来たり、一人で外出が出来るようになったり、好転した方の実例は第1回でご報告しました。

 その状態が生活のうえで何年持続できるかが問題ですが、1年でも2年でも、5年か10年か、維持できたら大成功です。本人の幸せ、家族の幸せ、周囲の幸せ、介護保険財政の幸せも莫大となります。そのための予防教室です。

ゲームで「何年ぶりかでおなかの底から笑った」とか、会場全体が笑いの渦になるとか、「明日が教室だと思うだけでも嬉しく楽しみだ」と、そのように言ってもらえる教室になることを目指してください。ゲームそれぞれの注意点はテキストに書いてあるとおり
です。

優しさのシャワーを忘れたゲームでは、「仏作って魂入れず」です。魂が復活するような優しさのシャワーを身につけてください。