『西鶴を読む』

(%紫点%) 前期講座(文学・文芸コース)(全14回講義)の第2回講義の報告です。
・日時:平成23年3月17日(木)午後1時半〜3時半
・場所:すばるホール(3階会議室) (富田林市)
・演題: 『西鶴を読む』〜今も昔もお金の苦労〜
・講師: 高橋圭一先生(大阪大谷大学文学部教授)
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*井原西鶴について*
・寛永十九年(1642)生誕〜元禄六年(1693年)52歳没
・俳諧師・浮世草子作者
・大坂に生まれ、大坂に住み(現中央区鎗屋町)、大坂の本屋から自作を刊行し、大坂に墓も現存する(現中央区上本町西四丁目 誓願寺)、近世大坂を代表する町人作家。
・代表作「好色一代男」(天和三年・1682年)、「好色五人女」、「本朝二十不孝」、「武道伝来紀」、「日本永代蔵」(貞享五年・1688年)、「世間胸算用」(元禄五年・1692年)など。
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(%エンピツ%) 講義の内容『世間胸算用』
*右の資料の肖像画は、講義のレジメに掲載されている西鶴肖像(一晶筆)です。
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○「西鶴を読む」の第1回は、 「世間胸算用」巻二の一[銀一匁の講中] です。
1.世間胸算用について
・元禄五年(1692年)正月刊。大本五巻五冊。各巻四章、全二十章。
・副題…「大晦日(おおつもごり)は一日千金」
・大晦日の一日における勘定を請求する側と催促される側との駆け引きや勘定を払いたくても金のない庶民の家計のやりくりなどをを描いている短編小説集。
・「胸算用」という題名は、世間の人々の様々な思惑や魂胆・策略を意味する。
*当時の商取引について
(信用取引)「掛売り」・「掛買い」、集金人=「掛取り」 ← 江戸時代は、原則として”つけ”(掛売り・買い)
(掛けの決済期)五節季(3/3、5/5、7/15、9/9、12/29,30)→当時の大晦日は、一年の総決算日で、中・下層の町人にとっては、どのようにして明日の正月を迎えるかという生活の浮沈の大変な日でした。
(当時の貨幣)金一両≒銀60匁≒銭4000文≒約20万円、 1匁=3.75kg
一貫目=1000匁≒330万円
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2.銀一匁の講中(ぎんいちもんめ の こうぢゆう)(「世間胸算用」巻二の一)
○「人の分限(ぶげん)になる事、仕合せというは言葉、まことは面々の知恵才覚を以てかせぎ出し、その家栄ゆる事ぞかし。」
→(対訳)「人が金持ちになることは幸運によるというのは、言葉だけのことで、本当は各人が知恵才覚で稼ぎ出し、その家が栄えることである。」
○「・・・金持二十八人かたらひ、一匁講といふ事をむすび、・・・一日も銀(かね)をあそばさぬ思案をめぐらしける」
→(対訳)「・・・金持ち28人が、一匁講という講を結成し、・・・貸し金の確かな借り手を調査し、一日も金を遊ばせない思案をしている。」
○「分限と身たる所は、娘を堺に縁組せしに、・・・諸道具今宮から長町(ながまち)の門(かど)までつづきし跡から・・・・・・「二十貫目預けました」。」
→(対訳)「金持ちと見立てた理由は、・・・娘を堺に嫁入りさせた時に、嫁入り道具が今宮から長町の藤の丸の膏薬屋(こうやくや)の門口まで続いて・・・・・・「二十貫目を貸しました」。」
長町につづく嫁入り荷物「・・・銀子無事に取りかえす・・・この伝授、上々の紬一疋ならば、慥(たし)かに取りかえして進上申す」
→(対訳)「お金を無事に取りかえ工夫の・・・伝授は、上々の紬(つむぎ)二反をお礼くださるなら、確かに教えて取り返してあげます」
○「・・・二番目のむすこが生まれつきをほめ出し、・・・わたくしもらひまして聟(むこ)にいたします。・・・娘も十人並よ。親仁(おやじ)のひとり子なれば、五十貫目付けて・・・」
→(対訳)「・・・(貸した先の)二番目の息子の生まれつきをほめ・・・私が貰いうけまして、婿にしとうございます。・・・この方の娘も十人並みの器量で、そのうえ親仁のひとり娘ですから、五十貫目の持参金を・・・」
大晦日の祝儀紙子一枚・・・
⇒このあとの大晦日の結末は、是非、「世間胸算用」を一度読んでみてください。金貸しの生態をユーモラスに描いており、貸す者と借りる者との虚々実々の駆け引きが面白い。
(現代語訳:小学館「日本古典文学全集 井原西鶴集3」昭和47年 神保五弥校注釈) 
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(%ノート%) 高橋圭一(たかはし けいいち)講師は、専攻は日本近世文学で、大学では井原西鶴や江戸の漫画である黄表紙を中心に、近世小説を講じています。
・主著『実録研究−筋を通す文学−』(清文堂)