「定年を過ぎても働き続けたい?」 兵庫県川西市 岩井 弘

(写真は八坂神社の大スギ・高知県長岡郡大豊町杉)——>
2011年8月31日
「定年を過ぎても働き続けたい?」
兵庫県川西市 岩井 弘

 2005年の暮れ、私は定年を待たずに、58歳で会社を辞めた。退職願には「母親の介護のため」と書いたが、本当は仕事での悩みや苦しみから少しでも早く解放されたかった。悠々自適の人生を送るのではなく、退職後は何も考えず、ただのんびりとこれからを考えたかった。会社を辞めても、今までの経験を活かせる仕事は簡単に見つかるとタカを括っていた。
 
 年が明けた1月の中旬、雇用保険受給資格を申請するため、伊丹市のハローワークに出かけた。その際、再就職の説明を受けが、直ぐに働く気持ちにはなれなかった。その後半年間、何回か雇用保険の支給を受けるためハローワークに通いながら新しい仕事を探しが、経験を生かせる仕事は見つからなかった。そのうちに職探しも止めてしまった。

 サラリーマンにとって定年は否応なしにやってくる。その後の人生は人それぞれ。私も会社を辞めて6年が過ぎた。現在(いま)はつつましく暮らしている。決して身の丈以上の贅沢はできないが、たまには好きな船釣りもしたい。将来に備えて少しでも蓄えを増やしたい。そんな64歳が、これからの暮らしは本当に大丈夫なのかと不安を感じている。

 そこで、2011年7月23日付け朝日新聞に掲載された、「<be between 読者とつくる> 定年を過ぎても働き続けたい?」のアンケート結果を次に紹介させていただきたい。調査の方法は、朝日新聞のアスパラクラブの会員で、1万7千人が登録する「beモニター」のうち、現在仕事をしている2283人からの回答を集計したものだ。

***・・・ 
★仕事をしている2283人が答えました。
●「定年を過ぎても働き続けたい?」
 「はい」 70% 「いいえ」 30%
★「はい」の人が答えました
●「なぜですか?」(複数回答)
 ①収入を得たい 1237人
 ②精神的に張り合いがある 1091人
 ③社会とつながっていたい 805人
 ④体の健康につながる 654
 ⑤世のため人のために役立ちたい 415(以下省略)
★「いいえ」の人が答えました
●「なぜですか?」
 ①自分の時間が欲しい 797人
 ②しんどい 368人
 ③家族と過ごしたい 352人(以下省略)
★「いいえ」の人が答えました
●「定年を待たずに辞めたい?」
 「はい」 50% 「いいえ」 50%
★仕事をしていない人が答えました。
●経済的な不安は?
 「強い」 25% 「少し」 48% 「ない」 27%
(回答者数:3772人)

 65歳以上が人口の23%を占め、「世界一の高齢社会」となった日本。意欲や体力のある高齢者がいかに働き続けるかが、社会の課題になっている。beモニターに、「定年後も働き続けたい?」、と尋ねた結果、70%が「はい」と答えた。・・・*** 

(写真は引作の大クス・三重県南牟婁郡御浜町引作)——->

 我々団塊世代は親の面倒を看る最後の世代、しかも子どもに面倒を看てもらえない最初の世代といわれている。真面目に精一杯働いてきたが、現在(いま)の蓄えだけで本当に大丈夫なのか。いつまでも健康ではいられない。先進医療の高額治療費も気になる。これからも過分な贅沢はできない。

 ところで、2008年9月のリーマンショック以来、日本でも若者の就職難がさらに深刻になった。失業率は一向に下がらない。派遣社員やパートタイマー、そしてアルバイトとして働く非正社員の比率が40%近くに達している。正社員の人員整理や採用減が不景気に拍車をかける。企業の理屈だけで賃金は決められ、働く人たちはまるで消耗品のように扱われている。

 このように不景気が続く暗い世相ではあるが多くの企業に望みたい。若い人たちの雇用機会を増やし、高校生や大学生に将来の希望を持たせてやって欲しい。そのことが日本を明るくする。また、第一線で頑張る働き盛りの人たちの長時間労働を改善し、会社への貢献度を賃金に反映させるなら、少子化の歯止めにもなろう。

 国連がこのほど公表した推計によると、2100年に日本人女性の平均寿命は95.7歳になるという。男性の平均寿命は現在79.59歳、定年退職した後の人生はさらに延び、25年以上になる。しかし、いつまで続くか分からない不景気とこれからの健康、そして年金制度の揺らぎなど、将来に対する不安は数多い。

 60歳の選択定年制が一部の企業で実施され、定年制の廃止も検討されているが、再雇用時の賃金は現役時代に比べると大きく落ち込む。そこで、超高齢社会に対応した賃金体系にすべく、定年制の見直しだけでなく、若者の雇用機会を増やし、少子化の歯止めにもつながる長時間労働を改めるなど、総合的な雇用制度を検討して欲しい。

 若者の雇用を増やし働き盛り世代の生活を支えるために、定年を現実問題とし捉え始める50代後半からの定年世代も、応分の負担は覚悟しなければならない。定年を前にして賃金カーブがフラットに近い状態に抑えられることは辛いが、再雇用時の賃金の落ち込みが抑制され、自分に合った量と質の仕事に就けるなら、健康である限り働き続けたいと望んでいる。

 意欲や体力のある定年世代が能力を発揮して働き続けることで精神的に張り合いがあり、社会ともつながり、しかも体の健康維持にもつながるのだから。さらに、年金などの社会保障制度を若者や働き盛り世代だけでなく、定年世代も自ら働いて支えていくならば、世代間の相互理解も生まれるかもしれない。(了)