『石上露子』・・・歌でたどる恋

(%紫点%) 後期講座(文学・文芸コース)の第3回講義の報告です。
・日時:9月29日(木)午後1時半〜3時半
・場所:すばるホール(3階会議室) (富田林市)
・演題: 「歌でたどる石上露子の恋」
・講師: 宮本 正章先生(石上露子を語る集い代表)
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*右は、講師:宮本正章先生の著書「石上露子 百歌−解釈と鑑賞」(2009年、竹林館発行)です。
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(%エンピツ%) 講義の内容
1.石上露子の短歌
■石上露子・略年表
【南河内の大地主・杉山家の長女として生れる。杉山家には男子がなく、露子が名跡を継ぐ責を負っていた(家制度の縛り)。家督を継ぐ運命のため、思いこがれた初恋の人に対するかなわぬ思いを詠んだ。…”ゆふちどり”、”石上露子”の筆名で「明星」などに短歌や詩などよせた。露子は杉山家から離れた小庵「恵日庵」で詩想を練り、時に石川の辺りを逍遥した。自伝「落葉のくに」。】
・明治15年(1882):1歳…大阪府石川郡富田林村に生れる。本名 杉山 孝(すぎやま たか)。
・明治32年(1899):18歳…長田正平(おさだしょうへい)(21歳、学生)と相識る。[家庭教師神山薫と東北旅行の後、東京の長田家に長期滞在]
・明治33年(1900):19歳…夏季休暇に正平、杉山家を訪問
・明治36年(1903):22歳…新詩社同人となる。「明星」卯歳10号に短歌三首掲載。正平、カナダ・ヴァンクーバーに赴任
・明治40年(1907):26歳…荘平(片山荘平・入婿)と結婚。「明星」申歳12号に「小板橋」の詩掲載
・明治41年(1908):27歳…文筆活動停止
・昭和6年(1931):50歳…「冬柏」で作歌活動再開
・昭和16年(1941):60歳…長男善郎没。昭和31年(1956)、次男好彦没
・昭和34年(1959):78歳…脳出血で急逝

2.「明星」掲載の石上露子の歌
(1)明治36年(1903)から明治41年(1908)[石上露子22歳〜27歳]
・発表した作品:短歌80首。詩1篇(「小板橋」)。美文4編
「君おもふとのみに流るる涙してひとりに慣れし秋かぜの家」
(口訳)[あなたのこと(カナダの長田正平)を思うだけで涙が流れる。秋風のなかの家で、たった一人の生活に慣れた私]
「身はここに君ゆゑ死ぬと磯づたひ文(ふみ)せし空の雲に泣きつつ」
「君ならぬ車つれなう門(かど)すぎてこの日も暮れぬ南河内に」
(口訳)[あなたがおいでになることをひたすら待ったが、お見えにならない。門前をあなたのでない車が無情にも通りすぎてゆく。南河内の我が家で、こうしてむなしく一日が暮れてしまった]
「ひと夜ねてうつくしみぬる夢の国まぼろし人をわすれかねつも」
「臥しぬれば髪に小肩にくちづけてしのびかに来る夕月もよし」
(2) 結婚(明治40年(1907))直前に作られた詩[石上露子26歳]
★ 小板橋 (ゆふちどり)
ゆきずりのわが小板橋
しらしらとひと枝のうばら
いずこより流れか寄りし。
(以下、省略)

3.石上露子と「冬柏」 [昭和5年(1930)〜昭和27年(1952) 石上露子49歳〜71歳]
「ふるさとの河内に似れど露に濡れ摘むべき花も 無き川原かな」
(口訳)[ここ賀茂川の河原は、故郷南河内の石川のそれと似ているけれど、朝露、夕露に濡れて摘むことができる草花もないさびしい河原だ]
「思ふ日は我がふるさとの河内路を昔男も越えけるものを」
(口訳)[私は今も昔の恋人のことを思う日があります。我が故郷の河内の道をあの在原業平さえも女の許へ通っていたのに、どうしてあの人はきてくれなかったのだろうかと」

4.女流歌人の恋の歌
(1)明星派五才媛(石上露子と以下の4人)
○与謝野晶子(1878〜1942)
・「やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君」(みだれ髪)
○山川登美子(1879〜1909)
・「ささやきのあつきくちびるふれふれてわが耳もえぬききとれぬまで」(恋衣拾遺)
○茅野雅子(1880〜1946)
・「春の夜の月の中にもかくれまし思ふと君に告げえたる後」(金沙集)
○玉野花子(1883〜1908)
・「かへるさの言葉すくなくうつくしきおん涙こそ雪と降りけめ」(明星)
(2)戦後女流歌人
○中城ふみ子(「乳房喪失」1954・7)
・「背のびして唇づけ返す春の夜のこころはあはれみづみづとして」
○馬場あき子(「早笛」1955・5)
・「君がまだ知らぬゆかたをきて待たむ風なつかしき夕べなりけり」
○河野祐子(「森のやうに獣のやうに」1972・5)
・「たとへば君ガサッと落葉すくふやうに私をさらって行ってくれぬか」
○俵万智(「サラダ記念日」1987・5)
・「万智ちゃんがほしいと言われ心だけついていきたい花いちもんめ」
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(%ノート%) 文学・文芸コースの次回講義(案内)
・日時:10月13日(木)午後1時半〜3時半
・演題: 「万葉空間」〜万葉集の世界に遊んでみませんか〜
・講師:辻 孝子先生(カルチャー講師)