『上方の伝統芸能について』

(%紫点%) 文学・文芸コースの第9回講義の報告です。
・日時:11月24日(木)午後1時半〜3時半
・場所:すばるホール(3階会議室) (富田林市)
・演題: 「上方の伝統芸能について」
・講師:広瀬 依子先生(雑誌「上方芸能」編集長)
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【雑誌「上方芸能」について】
・創刊…1968年 木津川 計氏が創刊。以来、1999年まで編集長。
・「上方芸能」の専門誌で、当初は、落語中心の内容でしたが、現在は、能・狂言、歌舞伎、文楽、日本舞踊、上方舞、邦楽、現代演劇、歌劇、落語、漫才など幅広いジャンルを取り扱う。
・現在、182号を発売。(年4回発行−2月、5月、8月、11月)
・発行人:木津川 計(和歌山大学客員教授)
・編集代表:森西 真弓(大阪樟蔭女子大学教授)
・編集長:広瀬 依子

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(%エンピツ%) 講義の内容
1.「上方」(かみがた)とは
・上方の「上(かみ)」は、天皇の住まいする御所のあるところの意で、かつては天皇がすみ永く都のあった京都とその周辺地域(大阪、兵庫、奈良、滋賀)を指します。
・芸能には東西の違いが濃く残っています。⇒同じジャンルで様式や芸風が違うものに、「上方」をつけて区別しています。(上方歌舞伎、上方舞、上方落語など)
・上方で包括される地域も、京・大阪で文化の様相が違います。⇒大まかには、京都は公家の文化、大阪は庶民の文化が発展しました。(関西弁でも、京都弁と大阪弁は違います。)
・現在では、交通とマスコミの発達によって、東西同化しつつあるが、江戸の文化を受け継ぐ東京と、上方の文化を受け継ぐ大阪とでは、人々の気質、言葉、食物、風俗、習慣などに違いがあります。

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2.古典芸能
○「能」
・猿楽…“能”の前身。奈良時代にさかのぼる。
・室町時代に大成する…「観阿弥・世阿弥」+足利義満
・中世のミュージカル…(謡い囃し舞う/仮面劇の能)
・五つの流派⇒ 「観世(かんぜ)」 、 「金剛(こんごう)」 、 「宝生(ほうしょう)」  「金春(こんぱる)」 、 「喜多(きた)」
・能は、信長、秀吉、家康に庇護。
○「狂言」
・台詞劇。セリフで笑いを喚起する喜劇。
・能と狂言をひとつにして「能楽」 …能と狂言は、ともに上演プログラムを組み、両車輪となって600年間の間、同じ舞台を踏んできています。
・流派… 「大蔵流」 (関西に多い)・茂山千五郎家など。 「和泉流」 (関東に多い)・野村万蔵家など。
○「歌舞伎」
・1603年京都・四條河原で人気を博す(出雲阿国)
・語原=傾き(かぶき)(普通ではない、変わっている)
・京都南座(日本最古の劇場)・京都の顔見世
・江戸の荒事に対して上方の和事
・明治の頃、人気は東西拮抗していたが、現在では、東京の江戸歌舞伎の方が、人材が多く輩出し、人気が高い。
○「文楽」
・大阪で生まれ育った芸能。近松門左衛門
・文楽は、義太夫節に合わせて人形を遣う音楽劇です。三味線がその伴奏であり拍子です。人形は太夫の語りを舞台で表現します。
・1984年に国立文楽劇場(大阪・日本橋)に誕生。2003年(平成15年)にはユネスコ
による世界文化遺産に登録。
○「舞踊」
・日本の古典舞踊…上方の舞(座敷で演じるところから、すり足を基本とする静かな動作)と江戸の踊り(劇場で行うところから跳躍を含む派手な動きを伴う)
・「上方舞」、「京舞」(井上流)

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3.大衆芸能
○「上方落語」
・落語は、元禄年間に登場。辻ばなし(道とか境内などで)からはじまる。今日のように
高座でじっくり聞かせる話芸として成立したのは近世後期。以来、幕末から明治にかけて東西に名人上手が輩出し、上方と江戸でそれぞれ発展。
・上方落語は、見台(けんだい)、膝隠し、小拍子を使い、出囃子など演出はにぎやか。
・上方落語(滑稽噺) ⇔ 江戸落語(人情噺)
【江戸(東京)の「真打制度」は、上方にはありません。上方では「襲名披露」が「真打昇進」とみてよいのではないかといわれています。】
・上方落語は、昭和二十年代に絶滅寸前(落語家17名)。今は約200人。
・天満天神繁盛亭…2006年オープン。60年ぶりの関西での落語定席の復活。
○「漫才」
・楽器(鼓など)を使う…砂川捨丸・春代、宮川左近ショー
・しゃべくり漫才…エンタツ・アチャコ(1930年(昭和5年)〜1934年(昭和9年))
・1980年代・漫才ブーム後、バブル経済の崩壊で人気低迷。21世紀に入ってM-1グランプリなどのコンテストを契機に人気が高まる。
・現在は、コントが中心。以前は派手な服装も、今は普通の服装が主となっている。
・師匠がいない漫才師が多くなっている。
○「講談」
・講談師…大阪約20人(最近、女流が5人)、東京約50人(半数が女流)
○「上方喜劇」
・「松竹新喜劇」…1990年藤山寛美さん死去。残念ながら往年の人気には程遠い。三代目の渋谷天外が率いている。
・「吉本新喜劇」…役者のキャラクター、ギャグを重点
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4.その他
○「歌劇」(レビュー)(「宝塚歌劇」・「OSK」)
・「宝塚歌劇」は、まもなく100周年を迎える。(大正3年(1914年)第一回公演)
・「宝塚歌劇」は、必ず「宝塚音楽学校」へ入学して2年間、声楽やダンス、演劇などを学び、卒業しなければならない。
・トップスターは辞める。後から後から登場する華やかな蕾が次第に花を咲かせ、新しいトップに成長していく。その繰り返しタカラヅカ。

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5.上方芸能の特徴
・新しいものを取り入れる柔軟性
・各ジャンルのつながり、垣根の低さ
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6.上方芸能のこれから
・「文楽」…年間の観客数は、ここ10年ほど、およそ10万人前後で横ばい。本拠地大阪の「夜の部」の入りが少ない
・古典芸能に親しむ機会が少ない⇒・子供の頃から、触れさすことが大切。
・吉本情報が多すぎるため、上方芸能イコール吉本となってしまっている。
(余話)
*雑誌「上方芸能」も、“漫才と落語の雑誌ですか”とか“吉本喜劇と関係があるのですか”と言われるとのこと。
*大阪の地盤沈下が、出版界でも…関西で、雑誌の編集長は約10人と少なくなっています。また、書籍の出版は、すべて、東京の卸元を通じて全国に流通しているのが実情です。