Rは、自宅から新幹線で3時間以上かかる私立の女子中学校に入学しました。
はじめての寮生活です。
でも、監視の厳しい家に居るよりは、落ち着けると感じていました。
大型の休みごとに地元に帰りますが、あれほど毎日遊びに行っていた親友Hの家には
一度も行ってません。
Hの母Yと会うこともありません。

Hの母Yは、HとRが揃って小学校を卒業した年の初夏、ひとつの講演会を実施しました。
演題は『トランスジェンダーが語る多様な性』
神戸市の山手にある会場の一番大きなとってもゴージャスな部屋に、
100名を超える大勢の一般の人々が集まりました。
あるテレビ番組の取材で、仰々しい大型カメラもありました。
とりわけ、学校関係者が多く参加していました。制服姿の中学生、高校生もいました。
講師のトランスジェンダー(性別もしくは生き方の性が移行している人)の方のお話を
皆さんが真剣に聞き入っている姿を壇上のそでから眺めながら、
HはRのことを考えていました。

Rが、もう二度と、ドレス一枚で、自分の才能を閉じなくていいように。
Rと同じような生き方をする子の誰もが、誰に遠慮することなく、イキイキ生きられるように。

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それから2年後の夏、Hのところに突然Rからメールが届きました。
ふわり見たよ。お母さんによろしく!」
たったそれだけの短いメッセージ。
でも、そこには、卒業以来音信不通だったRの、それまでの思いが、たくさんこもっていました。
「どうしてRが『ティーンズネットふわり』を知ったんだろうね〜、不思議だね」
Hはニコニコ笑っていました。Yも「不思議だね〜」と笑っていました。

<おしまい>