企業の子育て支援の可能性と方向性

本日は、保育年報2005(全国社会福祉協議会発行)に寄稿しました原稿を、このブログに掲載しちゃいます〜。。
まだ発行間もないですが・・。(2005年12月末)
 
企業のみなさま、NPOのみなさまもぜひお読みくださいね〜。

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「保育年報2005」 
各地で広がる子育て支援の輪

「企業の子育て支援の可能性と方向性」
 NPO法人こどもプロジェクト
 代表 福田 恵美 

Ⅰ 「次世代育成における企業の社会貢献とNPOとの連携」調査研究を実施 
少子化に歯止めがかからない状況が続くなか、2004(平成16)年度、次世代育成支援対策推進法の制定により、全国の自治体及び301人以上の雇用を抱える企業に対して行動計画策定が義務付けられた。2004年度末までに、2005(平成17)年からの10年間のこども・子育て支援の取り組み内容をプランニングし、労働局に提出するというものである。こども・子育て支援の立場からすると、国のこのような自治体、企業を巻き込んだ次世代育成分野への取り組みを推進する法律は画期的で、大いに期待をするものであった。
 だが、2005年度になりこの1年を振り返りながら、社会全体でこの法律に基づき新しい取り組みを考えていたかと思うと、おおいに疑問が残る。
 企業の場合に限っていうと、国からの指導内容では子育て支援に二つの切り口があり、一つは「働き方の見直しや男性の育児休暇の取得の推進」など、人事部の業務範囲、もう一つは企業の社会貢献活動や、企業市民としての責任ということで、「地域の子育て支援サークルやNPOなどへの支援や連携」という、社会貢献部や広報部、法務部の業務担当、と分かれていたのだ。そしてまた、「行動計画策定」という新しい仕事にインセンティブがあるかというと、行政と同じく縦割り組織である企業にとっても、あまりそうは感じられなかったようである。
 2004年度末までに行動計画を策定し労働局に提出する義務ということに関し、果たして何パーセントの企業が行ったのかという数字は発表されていない。また、企業には行動計画の策定内容を公開する義務はなく、提出先の労働局はそれを公開しないということもあとでわかった。
 このような次世代育成支援対策推進法の行動計画策定の企業への義務付けが、机上の空論に陥ることが予想されはじめたなか、2004年、財団法人こども未来財団より2004年度児童関連サービス調査研究等事業の委託を受け、「次世代育成における企業の社会貢献とNPOとの連携」調査研究を行った。企業における、地域とのかかわりの中での子育て支援という切り口での現状と今後の方向性の調査研究である。本稿は、この調査研究の結果をふまえながら、企業の子育て支援の可能性と方向性を考えてみたい。

Ⅱ 企業の地域での子育て支援の状況、各団体との連携
 まず、企業の地域での子育て支援の状況や、各団体との連携を知るために、経済団体に所属する1275社を対象としたアンケート調査を行った。87社(回収率6.8%)から回答が寄せられたが、「現在、次世代育成支援や活動団体と連携をしていないと回答しようがない」との企業からの声もあったように、すでに回収率の低さで企業の子育て支援への現状と認識が量られた。
 だがその87社の回答の中では、2003(平成15)年度の次世代育成支援活動については、67.8%が「次世代育成支援活動をしている」ということと(図Ⅱ−2)、同じく69.0%が「次世代育成支援に関してNPOやボランティア団体、地域活動団体などと連携している」との回答があった(図Ⅱ−3)。「地域の団体と連携せず自社独自で取り組んでいる」という企業はわずかで、ほとんどの企業が、次世代育成支援は何らかの形で団体と連携しながら進めているということである。
 次世代育成支援というと、その分野は幅広い。もっとも企業が連携している分野は「教育」(60%)で、「青少年育成」(48.3%)、「体験活動」(43.3%)、「スポーツ」(26.7%)と続き、「子育て」(21.7%)などは5位である(図Ⅱ−4)。
 また、各連携先の調査では、「NPO法人」(48.3%)、「任意団体」(30.0%)、「体育協会」「子ども会」「町内会」(10.0%)が同じく、「子育てネットワーク」(8.3%)と続く(図Ⅱ−5)。社会福祉協議会やボランティアセンターはその他(6.7%)に含まれる。教育関連の分野が、企業の地域との連携のきっかけとしては入りやすいということがわかった。
 連携の内容は、「資金援助」(53.3%)が最も高く、「人的支援」(51.7%)、「物品寄付」(36.7%)、「施設の提供」(35.0%)、「後援・協賛」(33.3%)、「事業協力」(31.7%)などと続く(図Ⅱ−6)。これらの複合支援となることも多い。

Ⅲ 子ども・子育て支援に対する企業のスタンス
 実はこの調査研究の中で、特定分野として、「病気の子どもと家族の滞在施設の実態とニーズの把握及びこれを支える企業とNPOの連携のあり方に関する調査研究」を行った。少子化による小児病院の統廃合や、小児科医師の不足により、地方から大都市の専門病院に入院する子どもたちが近年増えてきている。子どもには保護者(特に母親)が付き添うのがふつうであるが、その家族、幼いほかのきょうだいの面会時間以外での居場所や保育、宿泊場所にあたる滞在施設の現状の調査と今後の支援のあり方の研究である。
 この分野は、家族は当事者ではないため、医療や福祉の分野にも入っていない。かといって、現在子育ての分野に含まれるという共通認識はない。まだそのニーズや現状が社会で認識されていないこともそれらの原因のひとつであるが、このたびの調査研究の結果から見ても、大変ニーズと緊急性の高い分野ということがいえる(図Ⅱ−7)。
 この特定分野の調査研究を進めていくうち、面白いことがみえてきた。企業アンケート調査票に盛り込んだこの分野の団体との連携に関する企業の方向性は、「今までに滞在施設への支援や連携はしていないが、今後予定がある」と回答した企業が33.8%になったのである。これは、現状の企業の「子育て」分野の団体との連携22.1%をも超えている。
 企業インタビューなども行っていったのだが、その中では、「子育て支援?ママさんサークルでしょ?」「行政からの支援のないところにしか弊社は支援しないのです」などという企業のスタンスが見えた。つまり、「子育て支援の団体」と一言でいうと、専業主婦の集まりというイメージがあり、そのような日常的な、社員の家族だったりするかもしれないところと連携するよりも、企業としてはもっと支援の必要性や緊急度が高く、かわいそうな子どもたちや子育てを支援したいということだった。つまり、親がいない子どもたち、難病や障害を持つ子どもたちなどへの支援である。
 確かに、病気の子どもの家族の滞在施設の存在は、企業にもまだあまり知られていないが、この調査を機会に認知を広めることにもなって、支援の可能性を掘り起こす結果となった。また、現在そのような施設を運営している団体に物品寄付などをしている企業に、なぜこの活動を支援するのかインタビューしたとき、「たいへんな思いでご苦労されている若いご両親が多い、というここと、この活動分野は国や自治体からの支援がないからです。」との回答であった。
 行政の支援を受けていない活動は、子ども・子育て支援分野でももっとほかにもあるに違いない。また、緊急度が高い、すぐにも助けたくなるような気の毒な状況の子育てを支援している活動もあるであろう。だがいずれにしても、「次世代育成支援」が企業文化に根付いていない現状の中では、数字を追って国策として強調し法的に義務付けするよりも、社会全体として子どもや子育ての現状をまず把握することを促し、支援側へも心の面から子どもたちを見る、考える、支援する必要性を訴えていくことが有効であろうと感じた。

Ⅳ CSR(企業の社会的責任)と次世代育成支援
 近年日本でも、CSRという言葉が使われるようになってきた。人事的なことや、マーケティング、経営戦略をも含む、今までの企業の社会貢献活動より1歩進んだ、グローバルな視点である。企業があきらかにこの流れを意識して、CSR担当、CSR部など社長直轄で社内に位置づける方向性がみられはじめている。
 だが、それも一時的な流行であるという達観的ともいえる見方をしている企業も少なくない。というのも、次世代育成支援対策推進法の行動計画と同じく、CSRの流れも、いささか一方的で強引な印象を受けるからである。だがその仕掛け人は誰か?新聞社が絡んでいるということも聞くが、それはどうもわからない。時代の必然的な流れなのかもしれない。
 かたちや義務付けに対しては、どのようにでも取りつくろうことが出来る。体外的にその専門の部署や責任者を配置したというだけのこともある。とはいえ、「前向きに取り組んでいるぞ」という企業姿勢を見せることは大切であるし、少なくとも企業と協働したいと望んでいるNPOや団体にとっては、正式な窓口が増えることはありがたい。
 今後、CSR戦略の中に次世代育成支援を取り入れることは、企業にとっておおいに可能性がある。欧米のように不買運動につながることもあり得るし、SRI(社会的責任投資)ファンドの評価にもかかわってくる。だが、たとえば前述したような病気の子どもをもつ家族の滞在施設のような、行政からの支援を受けていない、いわゆるマイノリティな子ども・子育てやそのサポート団体にとっては、かたちや義務付けを原点に推進されるプランは、今まで行政がやっていることと何ら変わりがない。またそこで支援対象からもれてしまうことがある。
 マイノリティになることをおそれて、子どもを育てられない、生むことが出来ないという親も増えているという現状を重く見る必要がある。つまり、障害や病気を持つ子どもを産んでしまったら、日本の社会でははずされてしまう構造になっている現状を感じている人が多いということである。
 むしろ、そのようにどこからも支援されにくいマイノリティ分野の位置づけや整理、行政、企業、NPOそれぞれの得意とすることと役割をよく認識し、すべてのこどもは、「子育て」支援を受ける権利があり、「社会全体で子どもを育てる」という意識改革が根本になければ少子化の現代における課題の解決はない。

Ⅴ 企業の子育て支援団体との連携と今後の方向性
 このなかで、特筆しておきたいことがある。「どこの企業もまだ実施していないような」支援がしたいというのが外資系企業に多く、「他企業とすでに連携している、もしくは実績をもっている団体」と連携したいというのが国内資本の大手企業には多い。それは、担当者の意識にも如実に現れる。同じ環境で育った日本人でも外資系企業に勤務すると、意識が変わるのだろうか。「これは社会的な意義がある。私はこれを実施する」と決めると、それを躊躇することなく、また企業内でもそれを阻むものは少ない。日本企業では、「私は実施したいと思っていても、会社は・・」という組織に埋没した姿勢が見られる。
 企業にとっては、地域社会と何かをする場合は、ある程度リサーチが必要になるのだが、その業務の専任でない限りそれにそれほど時間をかけていられない。というわけで、わざわざリサーチして開拓するよりも実績を持つところと連携していればそんなに問題ないだろう、といったところであろう。
 社会貢献、地域との交流、こども・子育てとなると、どのキーワードも今までの利益優先の企業価値観から大きく違ってしまい、担当者は戸惑うことが多いのだ。情報が少ない。情報を得る場所や方法がわからない、というところからはじまる。そこで、同じ地域での企業同士のつながりも大切となり、ボランティアセンターなどを事務局に、地域の企業が定期的に情報交換会を開いているところもある。また、そのような、社会貢献したい、地域とのつながりがほしい企業とNPOの交流を目的としたサロンを開催しているNPOも現れはじめた。
 子どもや子育て支援について各企業が連携し、それぞれの企業としての得意分野をいかしながら、横のつながり、広がり(ネットワーク)を活用して、行政では出来ないところの子育て支援体制の基盤作りをNPOと連携しながら進め、隙間を埋めていくことがこれからの方向性として必要であろう。また、法的な義務づけでもなく、その行政、企業、NPOの役割を認識し、それらをつなげて社会全体で子育てしようという意識をもつコーディネーター的存在のNPOが、今後もっとも重要となる。

参考文献 
平成16年度 児童関連サービス調査研究等事業報告書
「次世代育成における企業の社会貢献とNPOとの連携」
財団法人こども未来財団/2005年

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最後まで読んでくださってありがとうございます!
表・図が入れられなくて残念!!

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