表現素材の多様性と小学校との関係

中平です。生徒の表現に用いられている素材は様式から逸脱しており、個性的です。しかも迷いがなく力強さを感じます。光の美術館で発表されたいくつかの平面・絵画的作品を例として紹介します。
はじめの作品は、トレーシングペーパー、イラストボード、色鉛筆、100円均一で買った昆虫の置物などを使っています。トレペの後ろにうっすらと、中学生の男女らしき人物が描かれていますが、トレペと昆虫のイメージが邪魔をしてぼやけています。この「伝わって来にくさ」が中学生らしいなあと感じ、おもしろい作品だと思います。いわゆる普通の美術の授業では現れて来にくい作品だと思います。

次は、大型のキャンバスにアクリルで真っ赤な薔薇が描かれています。その表面には、ガラスを砕いた破片が接着されています。見る物を引きつける力と拒絶。その二面性がおもしろいです。中学生ならではの表現だと思います。

最後は、板に描かれた「雪舟」の鶴の絵。この作品は、板に直接、はんだごてで焼き付けながら描かれています。はんだごてを丁寧に扱い、焼けこげ具合が妙に雪舟と合っています。この作品のおもしろさは、中学生がはんだごてで、絵を描いたというそこでしょう。今まで、私ははんだごてで描かれた絵を見たことはありません。新しい世界です。
このように、生徒達は、絵画表現の面でも、絵の具で画用紙に描くという、いわゆる様式や形式から逸脱しています。それはなぜなのでしょうか。その理由の一つは、小学校での図工で「造形あそび」という授業が行われているからではないでしょうか。この授業では、造形的要素を持った遊びを通して、自分で目的を考えたり、発想を広げたりすることを目的に行われています。その活動の中で育った素材感や表現感のようなものが、中学生になっても、きっかけさえ与えれば生かされるのだということではないでしょうか。
今、教育現場では、「造形遊びは必要か、不要か」という議論が続けられていますが、私は、中学生でも、大人でも、造形遊びも、アカデミックなものも、全部必要だと思います。「おもしろそうだから全部やっちゃえば」というスタンスが大事だと思います。