■Beckの問題意識〜ドイツ社会の変容

なぜBeckが市民労働ということを考えるに至ったのか。

それは今のドイツ社会が直面する(そして、ドイツ以外の場所でも、
ある程度あてはまるような)社会的変化が背景あったようです。
その変化とは、職業社会の終焉、すすむ個人化、グローバル化、
そして福祉国家の機能不全などです。ここでは、特に職業社会の
終焉ということに少し触れておきます。

旧来のドイツ社会における労働の特徴としてあげられたのは、
完全雇用の基本方針、正社員としての長期雇用、(そして特に男性の
場合は)仕事を通じたアイデンティティ獲得と、生活保障…
といったことでしょう。
しかし、もはやこのような構造は崩れ去り、必要とされる労働力
総量の減少、失業率の上昇、正社員の減少・・・という状態です。

問題なのは、このような状況にあっても、職業労働は、依然として
文化的に処方された「自分の価値を認める感情」をある意味独占して
いる、ということです。Beckは、このような従来の価値観から抜け出る
ことの必要性を論じています。

 職業社会の終焉だけではなく、グローバル化にせよ、福祉国家の
機能不全にせよ、国家や旧来型の家族を単位としたシステムでは既に
対応しきれない社会状況になっているのに、依然として従来の社会的
システムを抱え、またその価値観を人々が内包しているところに問題が
ある、ということでしょうか・・・

(つづく)