民衆のための政治〜コタカチ郡・民衆議会2006の報告

こんにちは。エクアドルのワダアヤです。

 フニン村で起こっている紛争が解決しないまま、インタグでの「民衆議会」に参加してきました。そのことをお話します。民衆議会というのは他に例を見ない、政治形式です。その取り組みから、コタカチ郡は、2000年にアラブ首長国連邦から、国際ドゥバイ賞を、さらに2002年には、UNESCOから、「平和都市賞」を受賞しています。

 私も、いわゆる政治には無関心な人間ですが、こんなふうなら参加してみようかなと思います。

<< 民衆議会とは? >>

 1996年に、アウキ・ティトゥアニャ氏は、先住民族キチュア出身として初めてコタカチ郡知事に選ばれました。このアウキ氏は、社会、経済、文化、環境のあらゆる面で、持続可能な発展、および多民族、多文化市民としてアイデンティティーの強化を目指し、リーダーシップを発揮しました。その取り組みの一環として、民衆議会という、先住民、メスティソ、アフリカ系エクアドル人の住民の意思を迎え入れ、子供から大人まで誰でも参加でき、それぞれの地域(都市部、アンデス地方、亜熱帯地方(インタグ))の住民のアイディアを取り入れ、自分たちの活動を自己評価し、以後の活動の計画、予算案を練る場を作りました。

<< どのように行われるのか? >>

 民衆議会は、2日間。初日は、開会式と分科会。二日目は分科会の討議内容と結論の発表、それに対する質疑応答、および決議があります。

 初日の開会式は、開会宣言、そしてアウキ氏の収支報告から始まります。どの地域のどんな分野にどれだけ郡の予算が使われたか、またどんな収入があったか、国内外のどんな団体からどれだけの支援があったかなど、細かく報告されます。その後に質疑応答。すべての質問にアウキ氏がこたえます。

 そしてその年その年にあったテーマで、その道のプロの講演があります。(去年のテーマは「ジャーナリズムと政治」(去年はあるラジオが大統領を退任に追い込むのに一役買ったという背景があった)、今年のテーマは「地域からの経済発展」など)

 また、子ども会や青年会の演劇、アンデス地方の伝統のダンスの披露もあります。

 その後、分科会に分かれて討議されます。今年のテーマ(括弧内は分科会の討議のテーマ)は、
・保健(栄養失調とインタグの病院建設)
・教育(リーダシップ養成講座とポスト・識字率向上プログラム)
・観光(観光業の未来)
・農業、酪農(環境に負荷を与えないオルタナティブとフェアトレード)
・手工業(組織と販路拡大)
・農産業(農産物の加工)
・マイクロ・クレジット(発展プログラムにおける貯蓄とクレジット)
・文化(文化交流と経済発展)
・障害者(仕事と雇用)
・こども(こどもの権利)
・青年(青年の郡全体の組織化)
・環境(水の質と川の健全化)
でした。

 また今回、初めてコタカチ郡の中心地から車で2時間も離れたインタグで開催されました。インタグの人は大喜びです。今まで遠いから参加できなかった人もたくさんいたのです。(コミュニティー、市民団体や生産者組合のリーダーたち以外は参加しにくかった。)そして今年はなんとコタカチから400人分、バス10台が出て、宿泊施設に泊まれない人たちはテントに寝ることになっていました。それでもやってしまう民衆議会のスタッフたちはすごいなぁと思いました。あと感心したのは、食事やおやつの提供も、ほとんど使い捨ての皿やスプーンはなし。私は絶対にすごいごみが出るんだろうと思っていたのですが、ゴミ箱にはごみはほとんどなし!これにはびっくりしました。

<< 民衆議会10年を振り返って >>

 今年で民衆議会も11回目ということで、過去10年を振り返るワークショップがありました。全体とそれぞれの分科会で行われました。どんなに高邁な思想を掲げてやっていることでも、そうそううまくはいきません。よい結果もあれば、まだまだ成し遂げられていないこともあります。たとえば、毎回同じ人ばかり参加している、民衆の意思の反映が足らない、同じことばかり話し合っているなどなど。私は過去4回参加していますが、毎回同じことを話しているような気がしていたりもしました。

 しかし、よい点などから見ると、なるほど、ナマケモノのようにゆっくりではあるけれど、確かに進んでいるのです。いくら小さな郡と言っても、3万人以上いて、その全員の意思を汲むなんてそうそうできることではないのです。しかし、コタカチ環境保全郡が宣言され、コタカチ郡に郡独立採算方の公立病院ができて50セントで診療が受けられるようになり、99%のコミュニティーに電気がとおり、コタカチ市場の改装、ソル・デ・ヴィーダという市民の心の相談所&障害者センターができ、インタグのエコツーリズム拠点の温泉ができ、焼畑キャンペンの展開、と目に見えて形になってきていることは確かなんです。すべては市民の声からスタートしたのです。

<< 今年の分科会 >>

 私が参加したのは、環境分科会です。まず最初に環境分科会の10年を振り返ることから始まりました。まだ環境教育が足らない、環境省、エネルギーと鉱山開発省などへの働きかけが足らない、コタカチ郡の最も汚染産業とされる生花産業の環境への取り組みが足らない、などが上がりました。そして特に、去年立ち上がった案「コタカチ郡の世界遺産」申請については、なかなかその必要基準は何なのかを調べることができず、いろいろあたってみたところ、パリの人から返事がきたが、全部フランス語なので現在翻訳中なのだとか。

 その後は、通常討議でした。フニンの事態の応援に行っている人たちが多くいたので、ちょっと寂しい分科会でしたが、「水」というテーマはとても興味深かったです。毎年、テーマに上るのは、当然のごとく鉱山開発なのですが、こうなると、一部の人は、「インタグばっかり」、あるいは「フニンばっかり」と取るようなのです。鉱山開発の問題は、もちろんフニンばかりか、インタグ全体、コタカチ全体、そして国全体の問題でもあります。でもたとえば、アンデス地方に住んでいて、インタグに行ったこともなく、そしてそれとは違う環境問題を抱えている場合、こう考えてしまうこともわからなくはない。そこで、今年のテーマは水になったのです。水の質を問えば、インタグ地方の森の重要さ、インタグ&アンデスの農薬・酪農による川の汚染、農村部&都市部のおける汚水問題、全部関係してくるのです。

<< 決議にあたって >>

 最後はそれぞれの分科会の発表とそこからの提案の決議ですが、今年は、農業・酪農分野、保健分野で喧々諤々の討議がありました。

 農業・酪農では、コタカチの市場のことがテーマにのぼりました。改装に伴い、出店料が上がり、市民の中で分断があり、別の市場ができてしまい、これにより市場の売り上げも、別のところの売り上げもよくないと。これは利害関係が大きすぎるので、また改めて討議する場を設けることになりました。

 保健では、インタグの病院をどこに建てるかということがテーマなっていて、今の候補地は人が集まる中心地から離れていてよろしくないから、町の中にあるサッカー場に建設すればいいという意見と、サッカー場をつぶすなんてどういう了見だという意見に分かれました。聞いていて、サッカー場か病院か、という問題は、私は病院に決まっているだろうと思いながらも、それでもサッカーというラテンアメリカにおける人々のほとんど唯一の娯楽を奪うことの意味は相当大きいんだろう、しかし何より、それを言うことができる民衆議会がすごいとも思いました。投票の結果、サッカー場をつぶすことになりましたが、現候補地をサッカー場に充てることになりました。

 この両方の討議は、アウキ氏も参加。すごいなぁと思ったのは、ほんとにわかりやす〜く(私のスペイン語能力でもほとんどわかる)、市民に自治体の立場から、背景、過程や予算などを説明していたこと。私の場合、先入観も無きにしも非ずですが、アウキ氏の発言には全部頷いててしまいます。

<< 最後に >>

 こんなふうに討議が行われますが、最後の〆はやっぱりダンス。ラテンです。どんな田舎でもこうして踊らなければ気がすまないのがとてもかわいらしくて、おもしろかったです。

 以上、ご報告でした。政治参加に興味ある方、来年参加されてはどうですか???

ワダアヤ