DPI世界会議韓国大会に参加して(その1)−障害者権利条約をめぐって

DPI世界会議韓国大会に参加し、7日に帰国した。大会はソウル市の北西に隣接する高陽(コヤン)市で開催された。高陽(コヤン)市は高層マンションが林立する、まさにソウル市のベットタウン。KINTEXという、日本でもそうはないと思われる巨大なコンベンションセンターが会場であった。
このブログで3回ほどに分けて報告したいと思う。まずは、大会の焦点と課題について。
以下に、東京自治研究センター機関誌「とうきょうの自治」に寄稿する予定の原稿を掲載する。(写真は大会であいさつするビーナス・イラガンDPI議長)

DPI世界会議札幌大会と韓国大会の間—障害者権利条約をめぐって

 DPI世界会議韓国大会が9月4日から8日までの日程で、韓国の高陽市(コヤン市)で開催され、私も参加する機会をえた。私は前回の札幌大会にも参加しており、この両大会の間の4年間の、障害者政策をめぐる国際的な運動と国内の動向の変化を、障害者権利条約を中心に記述しておきたいと思う。
DPIとはDisabled Peoples’ Internationalの略であり、日本語では「障害者インターナショナル」という。1981年の国際障害者年を機に、身体、知的、精神など、障害の種別を超えて「自らの声をもって活動する障害当事者団体」として設立された。したがって、今韓国大会はDPI結成25周年を祝う大会でもあった。
 前回4年前に開催された札幌大会の中心テーマは、障害者権利条約の採択をいかにすすめるかであった。そして札幌大会を契機に、DPIをはじめとした障害者団体の懸命な努力によって、障害者権利条約(障害を持つ人の権利に関する国際条約)は昨年2006年12月13日の国連総会において採択されたのである。したがって今回の韓国大会の中心テーマは「障害者権利条約の批准と国内履行およびモニタリング」であった。
 韓国大会も札幌大会と同様に、全体会議と分科会での具体的な議論という枠組みですすめられた。分科会は全部で18設けられたが、その1つに「国内履行とモニタリング」があり、私も出席することができたので、そこでの議論を紹介しておきたい。
 一般的に条約とは、国際法によって規律される国際的な合意(文書)である。日本は、批准、受諾または加入によって締結することが多く、この場合、条約は、(1) 署名(批准・受諾の場合)、(2) 国会による承認、(3) 批准書・受諾書・加入書の交換・寄託などの手順を経て効力を発生する。「国内履行とモニタリング」分科会においても、条約採択後の国内批准(署名)—国内法制度の整備—個別政策の具体化とモニタリングについて、5カ国の参加者から発言、問題提起があった。
 特に地元韓国の発言者の提起は意義あるものであった。なぜなら、韓国はすでに条約批准だけでなく、障害者差別禁止法まで成立させており、その発言の重さは際立っていた。韓国の発言者の問題提起で重要だと感じたのは次の3点である。
① 批准後にすぐに実行する義務のあるものと、徐々にすすめるものを分けること。すぐに実行すべきものは障害者の生存権や健康に関する権利である。
② 韓国の障害者差別禁止法は第三者委員会(人権委員会)を設置しているが、第三者委員会を設ける場合、国に対する勧告権限が重要である。
③ 障害者政策を取り扱う部署は、福祉の担当部局ではいけない。人権を担当する部局とすべきである。
ところで日本ではまだ障害者権利条約は批准されていない。さきほどの参議院議員選挙に際して日本障害者協議会が行ったアンケート調査では、条約の批准について「早急に国内法を障害者権利条約に適合するものと整備した上で賛成」と回答した政党は、自民党を除く民主党、公明党、日本共産党、社会民主党、国民新党の各政党であった。これら政党は「障害者差別禁止法の制定」にも賛意を明確にしている。
 参議院において野党が多数を占めることになった今、障害者自立支援法の課題など、1つ1つの課題を解決するとともに、障害者権利条約の批准と障害者差別禁止法など国内法の整備をすすめる環境は整っている。DPI日本会議など障害者団体の参画のもとに、障害を持つ人々が、障害を持つことを意識しないで生活できる環境をつくり出す政策の確立とその実現に、私たち研究機関も参画していきたいものである。