「外国人実習、違反7397件 氷山の一角」

「外国人実習、違反7397件 氷山の一角」
(朝日新聞 09月06日)
 過酷な労働環境が問題になっている外国人の技能実習制度で、制度を運営する財団法人「国際研修協力機構」(JITCO、本部・東京)が受け入れ先企業への巡回指導で把握した06年度の違法行為の延べ件数が、前年度より24%増の7397件に上っていることがわかった。ただし、巡回指導は事前に相手企業に連絡され、調査項目もほぼ同じで、企業が違法行為を隠蔽(いんぺい)する事例も少なくない。明るみに出た違反は「氷山の一角」との声が上がっている。

 ●トップは健診未実施

 JITCOは、労働基準法などが適用される技能実習生の受け入れ先企業を毎年定期的に巡回指導している。違法行為が相次いで発覚したため、06年度は指導件数を前年度の1.3倍の6206事業所に増やした。

 違反が最も多かった項目は、労働安全衛生法違反にあたる雇い入れ時の健康診断の未実施で、指導した事業所の28.2%の1749件。厚生年金保険の未加入が1103件(17.8%)、健康保険未加入が1099件(17.7%)だった。

 労基法違反は、適切な労使協定なしの残業が754件(12.1%)、労使協定なしの賃金天引きが565件(9.1%)。賃金台帳の未整備は43件(0.7%)、残業代の不適切な支払いは61件(1.0%)、最低賃金法違反は24件(0.4%)にすぎなかった。

 ●賃金の違反は隠す

 この結果について「(安い労働力として使うのが目的なので)賃金関係は問題が発覚しないよう入念に対策を講じている」と明かす関係者は少なくない。

 東海地方にある衣類加工の有限会社の場合。昨年、JITCOの男性職員が訪れ、中国人実習生3人の賃金台帳や実習日報を点検。実習生の一人に「賃金は現金でもらうか、振り込みか」などと日本語で尋ねた。調査は20分ほどで終わった。

 経営者は言う。「以前の巡回はよそで働いていないかを確かめる程度だった。今回は実習生の面接もあり緊張したが、突っ込んだ質問はなく台帳類もぱっと見た程度。何もばれなかった」

 台帳では、月額基本給約12万円、残業代約1万円、寮費・光熱費の天引き2万5000円など。だが実際は基本給5万円、残業代が1時間三百数十円。寮費や光熱費は取っていないが、最低賃金を大きく下回る。日報も「検品作業」「ファスナーの付け方」などの実習項目が並ぶが、本当はひたすらアイロンがけだ。

 多くの中小零細企業は協同組合などを通して実習生を受け入れている。この衣類加工会社には、数週間前に組合から「調査がある」と連絡があり、日報と台帳を違反がないようにつけるよう指示された。経営者の妻が数カ月分を記入した。

 ●受け答え事前練習

 賃金の受け取り方も、実習生は「現金」と答えたが本当は現金は一部。残りは会社が実習生名義の口座に預金し、通帳も保管している。実習生には組合の通訳が模範回答を覚えさせたという。

 別の受け入れ組合の担当者は「うちも現金払いと答えさせる。正直に振り込みと答えて『控えを見せて』と言われると、実際の賃金がばれてしまう」と打ち明ける。

 この担当者らによると、巡回指導では同じような質問があるので、やはり実習生に練習させる。年金や健康保険の未加入は「正直に答えても『これから入ります』と言えば強くは指導されなかった」という。

 JITCOは「強制的に立ち入り検査をする権限はなく、相手の協力なしに指導はできない。意図的に不正行為を隠されたら、見破ることは難しい」としている。