「【仕事事情】活躍する外国人技術者」(読売新聞10月9日)

「【仕事事情】活躍する外国人技術者」
(読売新聞10月9日)
製造、IT業界へ派遣増人手不足補う
 中国などから来日し、日本の企業で正社員として働く外国人技術者が増えている。景気回復に伴って技術者を増員したいメーカーや、慢性的な人手不足に悩むIT(情報技術)関連を中心に、企業側も受け入れに積極的だ。外国人技術者をメーカーなどに派遣・紹介するサービスも広がっている。(経済部 田中左千夫)

 技術者派遣で最大手のメイテック(本社・東京都港区)は2005年11月から、中国人の技術者を製品設計のスタッフとして、日本国内の自動車メーカーなどに派遣している。

 メイテックは、広州など中国国内の4か所で、製品設計の専門学校を直営で展開している。各校の卒業生のうち、日本で働く意欲があり、優秀でまじめな人材をグループ企業で採用し、日本のメーカーに派遣するシステムだ。

 給与などの待遇面は日本人社員と変わらず、一つの派遣先で3年間働けば、その会社に正社員として移籍することも可能だ。

 神奈川県厚木市にあるメイテックの研修施設では現在、52人の中国人が派遣に備えて研修を受けている。

 1コマ90分の授業を1日4コマこなし、カリキュラムの半分は設計の実習、残りを日本語の学習に充てる。

 研修で日本語の習得を重視するのは、メイテックや派遣先企業の日本人技術者と、設計などを共同で作業する機会が多いためだ。個々の設計技能や日本語の能力に応じ、2か月から1年近くの研修を重ねた後、メーカーに送り込まれる。

 研修生の一人、葉碧■(ヨウヘキテイ。■は「女へん」に「亭」)さん(22)は、今年3月に来日した。中国・福建省の大学でコンピューターのプログラミングを学んだ後、メイテックの専門学校に入り、家電や自動車など様々な製品に組み込まれる「組み込み系コンピューター」のソフト設計を身につけた。

 「日本で自分の技術を磨きたい。最低でも5年間は日本で働きたい」と、流暢(りゅうちょう)な日本語で来日の目的を語る。

 メイテックがメーカーに派遣している中国人技術者は、現時点でまだ69人と少ないが、今年度は130人、10年度は300人を採用する計画だ。

 人材紹介会社のアクシスコンサルティング(東京都千代田区)は、外国人のIT技術者を対象に、派遣先で一定の期間働いた後、相手先企業から正社員として採用される「紹介予定派遣」事業を行っている。
 企業向けコンピューターソフトを開発するアイロベックス(東京都新宿区)で働く戚光祥(セキコウショウ)さん(27)は昨年12月、アクシスからの半年間の派遣期間を終えて、正社員になった。
 中学から大学まで日本語を学び、日常会話には不自由しない。来日前は中国・大連のソフト会社に勤務していたが、インターネットでアクシスの紹介予定派遣を知り、「ネット面接」を経てアイロベックスに派遣された。
ソフト開発会社のアイロベックスで働く戚さん(左)と呉さん 同僚の呉昊(ゴコウ)さん(26)も、戚さんと同じ時期にアイロベックスに派遣され、その後、正社員になった。社内の外国人社員は2人だけだが、「中学からの同級生も日本の商社などでたくさん働いており、寂しくありません」と語る。
 アイロベックスの杉山淳子社長は「2人とも、若い日本人にありがちな甘えが全くない。日本語がもっと上達すれば取引先とのやりとりも円滑になり、さらに良い技術者になれる」と期待する。

技術流出防止策必要に
 団塊世代が大量退職期を迎え、国内の製造現場は人手不足を補うため、今後、外国人技術者を採用する動きが広がる可能性が大きい。一方で、海外では、日本企業の技術が流出する問題も浮上している。外国人技術者の採用が拡大すれば、国内でも同様の問題が起きる可能性がある。
 経済産業省が昨年秋に行った技術流出問題に関する調査では、回答した製造業の36%が「技術流出があった」と指摘している。
 このうち、人を介した流出ルートとしては、日本人退職者の38%に対して、国内で採用した外国人従業員から技術が漏れたとする企業は、わずか1%だった。
 中国人技術者の派遣を行っているメイテックグローバルソリューションズの長沼秀知執行役員は、「当社が手がける設計業務は細かい分業制になっており、重要な情報は漏れにくい」と説明する。外国人技術者の採用が進むIT業界も、同じ理由から技術流出の懸念は小さいとみられている。
 ただ、外国人技術者が受け持つ仕事の範囲は次第に広がっている。今後、業種や職種などによっては、流出防止策の検討が求められるという指摘もある。

<メモ>
外国人技術者 法務省入国管理局によると、技術者として日本に滞在が認められた外国人登録者数は、2005年末時点で2万9044人と、1995年末(9882人)からの10年間で3倍近くに増えた。国籍(出身地)別では、中国が1万4786人とほぼ半数を占める。IT関連を中心に、インド人技術者も2820人と、10年前の9倍以上に増えた。

(2007年10月9日 読売新聞)