仙台で開いている癒し系の塾では、普通に勉強を教えるほか、個別塾なので、おうちから希望があれば、「何かおもしろいこと」をいっしょにやる、というのをやっていて、現在、小学6年生ふたりと小学4年生ひとりが普通の勉強のかたわら、この「何かおもしろいことプロジェクト」に取り組んでいます(このほか、塾で出している「杜の教室通信」への投稿というかたちで、マンガやイラストはもちろん、3年にわたる連載小説を書いたり、私がかかえているプロジェクトへ参加したりと、生徒の多くが何らかの表現活動をしています)。
これまでに、小学4年生W君は「チネモン・ワールド」という仮想世界を小学1年生からつくりつづけており(右図)、小学6年生のひとりS君は昨年から歴史研究を(「風林火山」をやっていた昨年は上杉謙信をリサーチ)、もうひとりT君が今回レゴ研究を行うことになりました。
T君がレゴ好き、というのは知ってはいたのですが、何の話からか「デンマークの人の9割がレゴつくってるんです」という話になり、その後、彼が熱く語るレゴ・ワールドは私にとってほとんど未知の領域で、これはおもしろいコラボレートができるかもしれないと思うようになりました。T君はアメリカに住んでいたのですが、アメリカの「トイザラス」の売り場の8割はレゴなんだそうです。
そうして私が彼からレゴについての「レクチャー」を受けるようになったのが先月12月。「将来はレゴ・ビルダーになりたい」(ちなみに今日本にはその「レゴ・ビルダー」はひとりしかいないそうです)というT君がはじめて持ってきてくれたレゴが右の「エイリアン」(オリジナル作品)です。ところが、これがあまりに完成度が高すぎて、このときの私にはレゴの何たるかを把握するには難しすぎました。
満を持して、私はT君、そして同じアメリカ滞在経験をもち、かなりレゴを持っている歴史研究S君のふたりと先週、「レゴ風呂ジェクト・ミーティング」をもち、右のような図を描きながら、提案を行いました。それは私がここ2年ほどかかわってきた宮城県東鳴子の温泉街を舞台にした「GOTEN GOTEN アート湯治祭」での制作・展示を想定したプランで、今は使われていない旅館別館の壁の一部をレゴで覆ってしまうほか、内部にあるお風呂もレゴで覆い、「レゴ風呂」もしくは「レゴ風呂ック」をつくる、というものです。客室の壁や床の間をレゴで覆ったり、掛け軸をレゴでつくるのもいいかもしれない、とかいう提案です。
するとまず、「そんなにレゴ使ったらたいへんなお金が必要だ」とかいう例の現実的な反応が返ってくるわけですが、そこは「君たち小学生らしくないぞ」とか、オトナの子ども像をムリに押し付けつつ、「企画書をつくってレゴジャパンとかに送り、レゴを提供してもらってやればいい。もし提供してくれなければやらなければいいだけの話。だからそういう心配はとりあえず抜きで、思いっきりやりたいと思う企画をつくろう」と説明。
しかし、納得した彼らから帰ってきた反応は、「でも、こんなのただ壁をつくるだけで、全然おもしろくない」。
とにかくスケールの大きいもの、誰もが考えもしないほど巨大なもの、という方向性での「おもしろさ」(たとえば600メートルの並木全部にピンクの毛糸を結ぶようなプロジェクトのもつ「おもしろさ」)を考えていた私と、レゴの文脈の中でものをとらえている彼らとの間にはかなりの差があることが判明。
では、レゴの「おもしろさ」って、何なの? ということであれこれ話した結果わかったのは、「特殊パーツ」や「テクニック」と呼ばれる部品を、いかに「基本パーツ」と組み合わせてオリジナル作品を作り上げるかにある、ということでした(ちなみに「オリジナル」って?という質問にお答えするなら、レゴは通常、基本パーツの入ったバケツとして販売されるほかに、プラモデルのようにある完成形があって、それを組み立てるためのキットとして販売されているものがあり、これに対して自らがレゴの組み合わせから編み出したものを「オリジナル」と呼んでいるそうです)。
まずもって「テクニック」を普通にただの普通名詞だと思っていたのに、それがレゴのある種のパーツを意味することを知ったり(ちなみに右はT君のオリジナル作品で、タイヤのついている下の部分が「テクニック」で、その上に乗っている部分はレゴの「基本パーツ」なんだそうです)と、そうしたやりとりを通じて相手の目からものが見えてくるこの種のプロセスは、「まち」でアートをやるときにも感じるある種独特の快感で、これこそコミュニケーションの醍醐味ですねー。
「で、結局、君らは何やりたいの?」と聞くと、「実物大のレゴの車がつくりたい」とか、「温泉にレゴはあわない」とかいうことに。
そこで私がやっている種類のプロジェクトが、作品の特殊性だけでなく、それがそこで制作なり展示なりをされる必然性のようなものが大切なのだ、という話をがんばってし、「実物大の車をつくりたいならつくろう。しかし、それに連結する屋台をつくり、温泉街のにぎわい空間をつくりだす、というのならどうだろう。温泉街でやる意味も生まれ、君たちのやりたい実物大のレゴ車もできる。ついでに旅館の壁とお風呂もやるモチベーションがわいてくるだろう」「わかりました。きっと絶対、350%、こんな企画、レゴが受けるとは思いませんけど、やるだけやってみましょう」(いやいや?)ということに。
私がコンセプトやこれまでの経緯などそれらしい企画書を書き、彼らがレゴ車と屋台、風呂の模型をつくってくる、ということでこの日の1時間ほどの「レゴ・ミーティング」は終了。彼らは普通の算数の問題集へととりかかりました。
これからいったいどうなることかわかりませんが、彼らの卒業までに「企画書」を仕上げ、レゴジャパンへ送付してみたいと考えています。
ご声援を、また何か有力な情報やコネなどお持ちの方はどうぞよろしくお願いいたします。
(門脇篤)