深夜ラジオ番組「文化系トークラジオ Life」(TBS)が
23日の放送で、秋葉原事件を取り上げた。
司会は、ネットや若者について発言してきた
社会学者の鈴木謙介さん(32)。
番組のホームページの予告編で、鈴木さんは
「事件について何を言えばいいのか僕はわからない」と
リスナーに語りかけていた。
(略)
事件のあと鈴木さんのもとには、
事件の解説や分析を求める取材依頼が殺到した。
『暴走するインターネット』『ウェブ社会の思想』などの著書があり、
求められれば冷静な読み解きを披露してきた鈴木さんが今回、
解説的なコメントをすべて断った。
後輩の友人が事件の犠牲になったという。
安否を確認しようとした警察署で、
十数人の記者から取材されかけた。
思わずカメラを手でさえぎり、泣き続ける後輩に付き添った。
「ショックでした。『当事者性』に巻き込まれ、
言葉を失ってしまった」
予告では、リスナーに
「事件は語られていく。
解釈が出され、いずれ落ち着くかもしれない。
けどそうなる前に今のオレたちの言葉をしゃべった方がいい」
と呼びかけた。
23日午前1時半、投候・赤坂のスタジオで放送が始まった。
約400通のメールが寄せられた。
「もうやめにしませんか。
事件に何らかの象徴を見いだして騒ぎ立てるのは」
格差、秋葉原、派遣、異性にもてない……。
メディア上に”解釈の言葉”が流通する状況への批判メールだった。
「(容疑者の)書き込みを読んで、他人事じゃないと感じた」
と書いたのは、容疑者と同じ25歳のリスナーだ。
同年齢の別の男性は「苦しくて仕方がない」と書いた。
メールを読みあげながら鈴木さんは、
「過剰な物語化は確かに問題だ」と応じつつ、
「言葉や語りを必要とする人間もいる」
「(人々が事件に託す)言葉や欲望を僕らは止められない」と語った。
鈴木さんが言葉を回復したきっかけは
事件の約1週間後、ある座談会だった。
”識者”ではない同世代の人々と本音の言葉を交わす中で、
力が回復する実感を得た。
「苦しい」の語りを見つけよう。他者の話を聴いて、
「一つしかない自分の物語の声」をかけよう。
誰も殺させないために。
マイクで、そんなメッセージを伝えた。
社会学者として事件後に受け取った示唆は何か、放送後に尋ねてみた。
「他の多くの人との語りに巻き込まれて、もまれないとダメだということ」
と鈴木さんは答えた。
「社会学者の言葉は特権化されやすい。
それから逃れること、距離をとること」
論壇の”圏外”とも言えるラジオの場で、
鈴木さんは一つの語り方をつかんだと感じた。
そこは、言葉がキャッチボールさせる場所だった。
<モジズリがきれいな花を咲かせています>