思考の補助線 茂木健一郎より

*内なる情熱
もともと情熱(passion)という言葉はキリストの受難(passion)と同じ語源を持つ
この世で難を受けるからこそ困ったことがあるからこそ情熱は生まれる
誰だって生きていくうえで苦しいことや悲しいことくらいある
だからこそ生きるエネルギーも湧いてくるのである

*個性を支えるパラドックス
「個性」が社会全体の調和と相容れないというのは
とりわけ粗雑な議論で科学的に見ても間違っている
「個性」は他者とのコミュニケーションがあってこそ初めて磨かれるものだからである

日本は個性よりも全体の調和をはかる社会だからなどと
呪文のようなことを言っていても仕方がない

そもそも人格というものは他者との関係性なしでは成立しない
他者との濃密なやりとりの中に徐々に形成されていくのが私たちの人格である
河原の石ころが流されていく間に他の石とぶつかって
次第に形を変えていくように私たち人間もまた他者との行き交いの中に
次第に人格をととのえて行く
その中で次第に一人ひとりの個性が立ち上がってくる

*コミュニケーションの「同化作用」と「個性化作用」
他者とのコミュニケーションにはお互いを同質化する契機があることも事実である
とりわけティーンエージャーの時には「ピア・プレッシャー」と呼ばれる
人と異なる見かけや振る舞いを排除しようとする傾向が顕著となる

同化作用はコミュニケーションの中に程度の差こそあれ必ずある
それは大人になっても本質的に変わらないし
社会全体としても明確な傾向として存在し続ける
そのような同化のダイナミクスがエスカレートすれば
ファシズムに通じることは歴史が証明しているとことである

*脳は他人にほめらるように変化する
すでに多くの研究が示しているように脳内報酬物質を放出させる
きっかけになる外部からの刺激のうち最も強力なものは他人からの承認である
何かをやってそれが周囲に認められたりほめられたりした時に
そのことがドーパミンをはじめとする報酬物質を放出させるのである
その結果強化学習が成立することになる
極言すれば脳は「他人にほめられるように」変化していくのである
人格形成において他人とのやりとりが重大な意味を持つことは
経験に照らしても明らかであろう

<タマスダレは最近は少なくなりましたね>