母の嘆きが身につまされる

「すなしま」第17号関連の映画紹介第3弾は、小津安二郎監督の「一人息子」。
1936年の作品で、小津監督始めてのトーキー作品。

これも、舞台が砂町です。
信州の田舎から学問で身を立てるために出てきた主人公(日守新一)のもとを、田舎から母親(飯田蝶子)が訪ねてきます。最初は、母親は喜んで東京見物をしていますが、当時の何もない、貧しい砂町で何とか生活している息子を見て、「私は、お前が東京でもっとましな生活をしていると思ったよ……」と嘆きます。
実は、この息子の田舎の先生(笠智衆)も、東京に出てきているのですが、なかなか、ぱっとした生活が送れません。同じく、砂町の片隅で、1枚五十銭のとんかつを揚げて、生活をしています。
どんなに学問をつんでいても、東京で生きていくのはそれだけ大変なことだ……。
というのが、主なストーリー。でも、最後には、母は安心して信州に帰ります。

のちの「東京物語」を彷彿させるようなストーリーで、これまた、当時の砂町の生活がきちんと描かれています。
母親の「お前が東京でもっとましな生活をしているかと思った」という嘆きは、私にとっては、常に身につまされる言葉で、これまで何回も、実際に母親にいわれてきた、今でもいわれ続けていることです。
でも、結局は、人に情けをかけることの大切さを感じずにはいられない……でもそれは、果たして、この当時の現実なのか、この時代の人も、実現できずに憧れていたことかは定かではないのですが、とにかく、自分ももっとがんばってみようと思える温かい物語です。この年末には、絶対お勧めですね。

ところで、小津といえばつい先日、「東京の合唱」を見ましたが、これがまた、よかった!
まさしく、不況の嵐が吹き荒れる今の時代にぴったりの作品で、そこが何とも身につまされます。
まさか、小津監督は、この作品を作ってから80年近くたって、当時と同じような社会情勢が再現されるとは思ってなかったでしょうね。
こうして、時間を経ても、変らない価値を持つものが、名作なんでしょうね。