東向島の寺島浴場、街の痕跡

墨田区東向島にある寺島浴場は、ビルの一階にあります。元は玉の井駅という駅名だった東武東向島駅近くの幹線道路沿いで、周囲に店舗も多いので、たくさんのお客さんでにぎわっています。営業開始の午後3時になる前から、かなりの人が玄関前の駐輪場あたりで開店を待っていました。

浴室は青いタイルで統一され、青色の濃淡がなかなかいい感じです。浴槽の背景に壁絵がなく、その位置に一段高く露天風呂風の小さな浴室が作ってあります。そちらのお湯はかなりぬるめです。

寺島浴場の最寄駅は東武東向島ですが、京成の曳舟から歩いて行きました。というのも、京成のこのあたりは、昔から駅の移転、改廃があって、今ならその名残を見ることができるからです。

イベントで紹介した曳舟湯脇の踏切からは、京成曳舟駅が青砥よりに移転した跡に作られた通路が見えますし、曳舟と八広の間の線路際にある低い壁は、短命だった白髭線が分岐していた向島駅の跡だそうです。

白髭線は位置的には寺島浴場の少し北あたりを走っていたようで、永井荷風の「墨東奇譚」にも廃止になった玉の井駅跡が描かれていることが有名です。この辺りまで来てもかつての寺島町の賑わいを偲ばせるものはほとんどありません。

昔ちらっと見た滝田ゆうの「寺島町奇譚」は、ちょっと面長のやさしい眼の女性が印象的な漫画でした。その漫画にも街が空襲で灰燼に帰す場面がありましたが、付近の商店街などにも面影は少ないようです。

鉄道の遺構にわずかに残っていた街の痕跡ですが、明治通りの大踏切をはじめ、押上駅と八広駅間に残る踏切を解消するための連続立体交差化工事が始まっており、間もなく姿を消していきます。街の名を偲ぶ寺島浴場にはいつまでもがんばってほしいですね。

寺島浴場 墨田区東向島六丁目34−18 営業時間 15:00〜24:30 月曜お休み