きららの森 造形クラス5月

《 低学年造形クラス 》
4月は、オーストラリア先住民族、アボリジニの昔から伝わるお話『虹蛇伝説』を、5月はリンドグレーン作の『赤い鳥の国へ』を子供達にお話しました。今回はこの『赤い鳥の国へ』について少し触れたいと思います。
 両親を失った幼い兄妹が、あるお百姓さんの家にもらわれるのですが、そこで二人は牛小屋で毎日働かさせます。辛い毎日の中で一つだけ、二人が楽しみにしていたこと、それは冬になると村に先生がやって来て、学校が始まることでした。でも、そこでは先生にしかられ、他の子供達からいじめられ、自分達だけ惨めなお弁当を食べて、辛い毎日を過ごします。冷たい冬の森の中を二人は急いで家へと向かいます。家には怖いお百姓さんと、辛い牛小屋の仕事が待っています。でもその時、二人の前に真っ赤な一羽の鳥が現れ、二人を不思議な世界へと導き入れます。そこは若葉が茂る緑の草原に、真っ赤な服を着た子供達が楽しく遊んでいました。そして、丘の上から優しいお母さんが、「ごはんよー!いらっしゃーい!」と、手を振っていました。おなか一杯に食べた二人は、また来ると約束し、お百姓さんの家へと帰ります…(お話はまだ続きます)。
 制作では、お話の中の辛く冷たい冬の雰囲気を思い出しながら、青を画用紙に広げていきました。次に、赤い鳥に導かれた春の世界を思い出しながら、黄色い光を画用紙に広げていきました。画面は二つの色が溶け合い、緑の草木の茂る世界へと変わっていきました。その世界に入って、驚きと喜びに包まれた二人の服は真っ赤に染まり始めます…。
 つらい生活と冷たい吹雪の中で、心は収縮し、魂は消えてなくなりそうになったとき、赤い鳥が現れました。それは心の内にある、決して消すことのできぬ真っ赤な熱でもあります。どんなにそれが小さくとも、消えることのない赤い熱。それは羽ばたき、もう一つの世界へと導きます。そこには女神のような母が両手を広げて二人を癒します。二人はこの2つの世界を行き来し始めるようになります。

子供達の自由な創造性を引き出すために、全く自由に描かせるという方法もあるかもしれませんが、ここでは、お話の中の精神的な内容が、子供達の心の無意識のところで響くような絵画制作になるよう、大人があらかじめ探求し、準備しておく必要があるでしょう。そういった導きの下、始めは子供達が同じように描いているように見えても、必ずそこに子供達一人一人の個性が引き出され、結果的に一つ一つ異なる作品に仕上がっていきます。それは、私達一人一人に個性と言う違いがありながらも、人類の精神性の中で一つに浸透しているように、絵画の世界にも同じことが言えます。独創性は人類の精神性に照らし出されて、初めて本物の創造活動の力となるのです。
 とは言うものの、実際どのように絵画活動を導いていくのか、試行錯誤の毎日です。子供達の心の中に、この赤い鳥が巣をつくり、卵を産んでほしいものです。そして大人になったとき、赤い鳥が巣立ち、世界に向かって飛び立ってほしいと願います。
細井 信宏(ほそい のぶひろ)