生物多様性をメコン河から考える「メコン河の味−川のり」

2010年名古屋で生物多様性条約の締約国会議(COP10)が開かれることもあり、「生物多様性」という言葉が、よく聞かれるようになりました。けれども日々の暮らしの中で、生き物や自然に支えられている私たちの暮らし、といったことを実感することはあまり無いのではないでしょうか。

 東南アジアの田舎を旅すると、生物多様性や自然に支えられた暮らしというものが見えてきます。市場では、さまざまな野菜に混じって森で採られた山菜・野草の類、食べられるバッタやタガメなど昆虫、川で獲ったナマズや小魚やサワガニ、場合によってはヘビやオオトカゲ、カメ、スッポンなどの爬虫類が食用に売られていることもあります。森や川、農薬の少ない水田などで地元のおばさんや子供たちが採ってきていました。

 私が4年間通ったタイ北部のメコン川沿いの町チェンコンの市場では、乾季になるとガイと呼ばれる川海苔を採って売るおばさんたちがいました。川海苔は日本の青のりのようなもので、乾季に水位が下がって水が澄んでくると浅い水中の岩に生えてきます。これを岩からむしりとり、よく洗ってゴミや砂を落とし、スープや和え物にしたり、ゴマ・ニンニク・調味料を載せて乾燥させ、ちょっと厚い韓国海苔風に、焼いておつまみのように食べたりします。メコンの本流で採れるものがおいしいと言われていました。和え物はちょっと青臭く、私は韓国海苔風が一番好きでした。

 この季節の味も、今メコン河開発の影響で失われつつあります。メコン河の上流部中国雲南省では、既に4基の本流ダムが建設され、ダムからの放流によって川の水位が不自然で不安定になっています。2004年頃には、中国とラオス・ビルマ(ミャンマー)を通ってタイ北部を結ぶ航路拡大のため川底の浚渫(しゅんせつ)が進められ、川底の岩をダイナマイトで爆破して工事が進められていました。また大型商業船が増えたことで、水質も悪化してきているといわれていました。このためメコン河本流・タイ側では十分な量のガイを採ることができなくなり、原料を川向うのラオスの支流から購入していました。あれから5年、今メコン河は、そこに生きる人の暮らしは、どうなっているのでしょうか。

 この9月から、地球・人間環境フォーラムと国際環境NGO FoE Japan、メコン・ウォッチの3団体で主催している連続セミナー「人々の生物多様性」では、自然の豊かさを上手に利用して生きてきたアジアの人々の知恵と暮らし、生物多様性との共存、そして開発の影響についてとりあげています。

次回は10月15日開催、タイ・ラオスのメコン河のお話です。ぜひお越しください。(飯)