「農」はいつでもワンダーランド 都市の素敵な田舎ぐらし

ユギ・ファーマーズ・クラブ編 学陽書房より

東京オリンピックの幕が閉じられた直後の1964年暮れ
突如、新聞の見出しに「ニュータウン」の文字が躍り出た
八王子市、町田市、多摩市、稲城町の二市二町にまたがる3020ha
予定戸数11万戸、人口30万人(のちに41万人に変更)
山林が多い多摩丘陵とはいえ、そこは先祖代々の農家が住み付いている

由木村といえば東京酪農の発祥の地として有名だった
さらに生糸の豪商を生んだ土地としてその生糸を運んだ「絹の道」が貫き
養蚕の村としても注目されていた

海抜100mから200m程度の雑木林が連なる多摩丘陵の丘と丘の間には
土地の人が谷戸と呼ぶ湿地(窪地)がある
谷戸では丘に降った雨が浸み出て小川となり
その水を利用して稲作が行われてきた
湿地特有の動植物も多数生息している
かつてはドジョウやフナなどがきわめて豊富で
鈴木さんの奥さんの話によると1960年代後半の農薬大量散布の前までは
ゲンジボタルやヘイケボタルが小川いっぱいに乱舞していたという

ユギ・ファーマーズ・クラブ。正式名称は「由木の農業と自然を育てる会」
多摩ニュータウン19住区開発予定地域である東京都八王子市堀之内の
寺沢・引切地区を舞台に代々酪農や養蚕を営む農家と
多摩ニュータウンに転入してきた都市住民が交流しながら
都市と農業が共存する新しいまちづくりをめざすグループである
誕生は1987年の春。

ユギ・ファマーズ・クラブの活動は多摩ニュータウン19住区の自然に密着している
その自然はいわゆる天然の自然、原生林の自然ではない
雑木林、田んぼ、畑、池、畦道・・・・・
そしてそこに暮らしてきた人間との長年にわたる共存によって培われた、
人の手のはいった自然である
人を寄せつけない、侵しがたい聖域ではなく、その懐に飛び込んでいける場所だ
親しみやすく、やすらぎを感じられる自然なのだ
開発が進んだニュータウン地区から寺沢・引切地区へ足を踏み入れたときに
誰もが驚きとともに感じる懐かしさがいかにも象徴的である
やって来た人たちは、まず開放感を味わい、童心に帰る
日ごろ閉塞した都市空間の中で身にまとってしまったヨロイを脱ぎ捨てて
安心して遊んでしまう
草、木、土、水、虫、鳥、風、雲
眼を凝らせば、はっとすること、わくわくすることに満ちている
自身の五感をとぎすますほどに、いろいろなものが手に入る
時を忘れて夢中になるということを思い出させてくれるものが、そこにはある 

農作業は自然と人間との対話の積み重ねによって築きあげられた知恵の結晶だ
いくら書物を読みあさっても、頭であれこれ考えても農作物は芽を出さない
知ったかぶりは通用しない
鈴木さんや小谷田さんに手とり足とり教わりながら体を動かすしかない
自分で汗を流さなければ何も手に入らないのだ
そんな農の営みのなかで、私たちは自然の一部としての人間本来の速度や節度を思い出す
心にゆとりややすらぎを取り戻す
家庭や職場ではついわがままになったり、甘えたり、見栄をはったりしてしまう同じ人間が
やさしく大らかな気持ちになれる
自然とつきあいながら、人とも気負いなくつきあっていけるのである

・・・・・里山と田んぼを見てきました
皆の心のよりどころとして残していきたい奇跡の自然環境です
当会も農業ボランティアなどコラボレーションを模索中
田植えが楽しみです・・・・・・・・