『究極の選択 うどんとそば』 <関西人のあなたは どっち?>

(皆瀬川などの支流を集め日本海に注ぐ雄物川・秋田市新屋町)
2012年2月16日
『究極の選択 うどんとそば』
<関西人のあなたは どっち?>
 
 1968(昭和43)年の春、21歳の私は生れて初めての一人旅に出た。大阪駅で「急行鷲羽」に乗り、香川の三本松に住む友人に会いに行った。その後は、高松から再び岡山に戻り、尾道、広島、岩国を経て最終目的地の下関でフグを食べる旅であった。

 宇野駅で下車した後、宇高連絡船に乗船。居合わせた乗客の勧めで、船内の売店で初めて讃岐うどんを食べた。下船後、乗客たちは高松駅までの連絡通路を走りながら私を追い越して行った。高松駅では四国各地へ向かう列車が待っていたので、その理由が分かった。徳島行き列車の出発時刻まで余裕があったので、高徳線のプラットホームの売店で再び讃岐うどんを食べた。

 夕方友人宅に着くと、彼の母親がゴザで覆ったうどん生地を足の裏で踏んでいた。足で食べ物を踏むのを初めて見て仰天したものだ。丸棒でうどん玉を平らに伸ばし、次に生地を折りたたみ、包丁で手際よく切っていく。茹であがったうどんをどんぶり鉢に盛り、醤油ベースのつゆをかけて食べた。

 太いのやら細いもの、短いものもあれば長いものなど、麺の太さと長さが揃わず不格好ではあったが、お茶をすすりながら一気に食べた。香川の人たちは客人があると、自らうどんを打って客人を迎える習慣があると後になって知った。連絡船の中や、高松駅の売店で食べたうどんとはまったく趣が異なっていたが、彼の母親のもてなしに感謝した。

 あれから時が過ぎ、今から約10年前の1月末、マスコミで話題になっていた讃岐うどんを食べたくなって、香川県仲多度郡まんのう町の製麺会社を訪ねたことがあった。安くて美味しく、腹いっぱいになる。信号機の数よりうどん店の方が多いと言われる香川県。釜揚げうどんやざるうどん、さらにはかけうどん、いろんな食べ方を試したかった。

 製麺会社の経営者に誘われて、近くの一般店でうどんをご馳走になった。昼時のためか、店内はかなり混んでいた。うどんを食べながら、その方が呟いた。「讃岐のうどんは確かにうまい。しかし、讃岐に勝るうどんが秋田にある」。麺づくりのプロであれば、地元のうどんが一番と誇りに思うのだが、この人は秋田のうどんを絶賛した。

讃岐のオトコでさえ一目置くほどの秋田のうどん。その製造現場を見たくなり、2ヵ月後の3月末、秋田へ行った。製麺会社の経営者の案内で、秋田空港から秋田自動車道を経て、栗駒山を目標に国道398号線を南下。着いたのは湯沢市稲庭町。早速、とある民家を訪れた。

(写真は宮城・岩手・秋田の三県にまたがる栗駒山、標高1627m)
 
 うどん生地特有の臭いが残る製麺工場には古びた機械が据えられていた。一目見て驚いた。幼い頃、私が育った奈良県三輪のそうめん農家が使っていたのと同じ形状の機械だった。縄状になった麺を綯いながら、並行に据えられた二本の棒に8の字に掛けていく機械である。この工程の後は、二本の棒を左右に広げて麺を延ばしていく。

 稲庭うどんが誕生したのは江戸の初期。長崎の五島うどん、香川県の讃岐うどんと並び、日本三大うどんのひとつ。元来が乾麺で、太さはうどんとそうめんの中間。製造過程で麺を平らにするのが特徴。秋田藩主佐竹公が江戸出府に際し、将軍家や大名への贈答品として使われた。古来より、「羽後に秘麺」ありと伝えられ、絶品なること「光沢透きとおり、口あたり滑らかにして絶妙のコシ」と評された。

 一方そばとなると、そうめんの産地で育ったせいか、幼い頃からそばを食する機会は少なかった。中学生の頃は、学習塾からの帰り道食堂に立ち寄って、友だちとかけうどんを食べるのが楽しみだった。大晦日もそばではなく、「年越しうどん」。後年になって、篠山のそば屋で順番待ちをして十割そばを食べたが、関西の「きつねうどん」で育ったせいか、どうもそば本来の香りや味は今もってよく分からない。

 さて、そばには決まった呼び方があるそうだ。現在(いま)は海苔のかかったそばを「ざるそば」、かかっていないそばを「盛りそば」と呼ぶらしい。また、そばの器である蒸(せい)籠(ろ)に盛られたそばでも、海苔がかかっておれば「ざるそば」、ざるに盛られていても海苔がかかっていなければ「盛りそば」と呼ぶそうだ。そばは、先だけをそばつゆに浸し、口に入れたらあまり噛まずに啜り込む。喉越しと鼻に通る香りを楽しむのが粋な食べ方とされる。

 しかし、そんな粋な食べ方が分からなくて構わない。茹でたそばを丼に盛り、鰹節と昆布からとった出汁をたっぷり入れて、そこに甘く煮つけた油揚げととろろ昆布をふりかければ満足だ。ただ、昨年の夏、道の駅のそば打ち体験で十割そばをつくったのがきっかけとなり、そばの美味しさが何となく分かってきたような気がする。

 ところで、新潟県・糸魚川から静岡県を結ぶラインの東側は主にそば、西側は主にうどんを多く食べると言われている。ただ例外もあり、西日本でもそば食が盛んな山間地域が存在する。そこで、「うどんとそば、あなたはどちらがお好き?」と、朝日新聞が読者に究極の選択を求めたアンケート結果を次に紹介させていただきたい。調査の方法は、朝日新聞のアスパラクラブの会員のうち、1万7千人が登録する「beモニター」へアンケートを実施、4018人からの回答を集計したものです。

(江戸前蕎麦の伝統を守るそば屋の店内・千代田区神田淡路町)
<be between 読者とつくる>
『うどんとそば、どっちが好き?』
(2011年12月10日付け朝日新聞より引用)

 日本の伝統的ファストフードといえば、うどんとそば。どちらも人気の国民食ですよね。究極の選択を求めた結果、4%の小差で「うどん派」が優勢でした。無論、両方とも同じくらい大好物で、断腸の思いで選び取った人も多かったようです。

●うどんとそば、どっちが好き?
 ★うどん 52% : そば 48%
 ★うどん 24% どちらかといえばうどん 28%≫ ≪どちらかといえばそば 32% そば 16%

◆「うどん」の人が答えました
●好きな具材・味付けは?(複数回答、10位まで)
①油揚げ 1145人
②かき揚げ 1136人
③鍋焼き(しょうゆ味) 1092人
④カレー 903人
⑤たまご 840人
⑥エビ天 800人
⑦釜揚げ 795人
⑧ワカメ 745人
⑨煮込み(みそ味) 630人
⑩天かす 618人
◆「うどん」の人が答えました
●そばは好き?
好き 42% どちらかといえば好き 45% どちらかといえば嫌い 11% 嫌い 2%

◆「そば」の人が答えました
●好きな具材・味付けは?(複数回答、10位まで)
①かき揚げ 1109人
②エビ天 948人
③とろろ 897人
④大根おろし 837人
⑤山菜 829人
⑥キノコ 672人
⑦かけそば 521人
⑧鴨肉 510人
⑨野菜天 506人
⑩油揚げ 471人
◆「そば」の人が答えました
●うどんは好き?
好き 50% どちらかといえば好き 41% どちらかといえば嫌い 8% 嫌い 1%

◆全員が答えました
●今どちらがブームだと思う?
①うどん 39%
②どちらもブーム 27%
③そば 9%
④どちらもはやっていない 9%
⑤わからない 16%

(写真は豊岡市出石で皿そばを出すそば屋の玄関)
◆気軽さ、安さに軍配
 うどんの方が「好き」、または「どちらかといえば好き」と答えた人は計52%で、半数をほんの少し上回った。

 静岡県の会社員の男性(57)は休日、妻と讃岐うどんのチェーン店に行く。スーパーの中にあり、買い物ついでに気軽に入れる。妻はキツネうどん、夫はぶっかけうどんを大盛りにし、天ぷらやコロッケも添える。合計で千円程度。「麺にコシがあり、だしもうまい。しかも安い。正直、行く理由は安さ」。うどん派の多くは、気軽さ、安さを評価していた。

 一方、そば派には、理屈や蘊蓄(うんちく)を語る人が多かった。「天ぷらだ? なんだかんだ入れるやつは、そばを食べる資格なし。めんをつゆにとっぷりつけるなって!」(埼玉、67歳男性)。「年をとって、そばの味がわかったのかも」(愛知、73歳男性)と、食を味わい尽くしてたどり着いた「境地」のような語り口をする人もいれば、「高級な十割そばは、香りがのどの奥から鼻に抜ける。2千円出しても惜しくない」(兵庫、28歳女性)と、味に強くこだわる人も。

 好きが高じて、うどん批判に及ぶ人もいた。「落語の噺家(はなしか)がそばをすする音に思わず生唾(なまつば)が出る。うどんでは様にならない」(東京、59歳男性)。そうした見方があることは、うどん派も先刻承知で、「そば好きには偉そうな物言いが多い。うどん好きは、『おいしい!』と素直」(東京、47歳女性)という声も。そば派はロマンチスト、うどん派はリアリストということか

 兵庫県のパート勤務の男性(64)は、自分はそば、妻はうどんの店に行きたがるという。口論の末、「ほな、あっち行くわ」と別々の店に行くこともあり、「そんなら何でわざわざ一緒に出かけるのって話だ」と苦笑した。とはいえ、うどん派の87%がそばも好きだと回答し、そば派の91%がうどんも好きだと答えている。

 両派に共通していたのは、手作りの味への愛着だ。神奈川県の公務員の女性(49)は、「父の手打ちそばをもう一度食べたい」と話す。父のそばは、「職人並みの味」だったが、2年前に認知症になり、そばが打てなくなった。「こねては失敗、またこねる、捨てるを繰り返して悔しがっていた。私がそばの話をすると、目を輝かせた」。

 うどん派からも、「子どもの頃、家で祖父がうどんを打った。粉を足で踏む時、私をおぶって、私の体重もかけていた。」(神奈川、56歳女性)といった思い出話が寄せられた。(寺下真理加)

◆そばは江戸文化の美食
 「そばが負けたが、衰退気味というわけではない。中高年層を中心に、体に良い食べ物として依然、人気は高い」。日本の食文化に詳しい伝承料理研究家の奥村彪生(あやお)さんはそう話す。食糧難などに備える「救荒食」だったそばを美的な食に昇華させたのは江戸っ子。

 「江戸文化では、値段の高いものが良く、値切るのは『ヤボ』と言われた」。その流れが、そばの高級志向の背景にあるという。とはいえ、そばの勘定をごまかそうとした男の滑稽話である江戸落語の「時そば」は、上方落語の「時うどん」が元ネタになっているそうだ。

 「そば粉の方が小麦粉より高いのは分かるが、最近のそば屋には、付加価値の付けすぎかな、という店も多い」とも指摘する。最近人気の讃岐うどんチェーン店はセルフサービスで人件費を抑え、トッピングの楽しみもある。「財布のひもが固い時代。安くて食べ応えのあるうどん店が更に伸びていくだろう。(了)