第181回講演会 70年前の大ベストセラー「人間 この未知なるもの」

講演者 木村雄一 (会員)

著者 アレキシスカレル
翻訳 渡部昇一

はしがき
この本は多くの先達の観察や研究、その努力の結果あきらかになった事実のみを根拠として「人間」についてのスケッチを纏めたものである。
私の勝手な独断は含まれていない。間歇に、幼稚でなく、通俗でなくを心掛けた。
そして、現代文明の欠点と弱さを知ろうと努めた。

★ アレキシス・カレル (1873〜1944)(明治6年〜昭和19)
リヨン生まれ、リヨン大学医学部卒、外科医、1905年渡米、ロックヘラー研究所のフレクスナ−の知遇を得る、1912年ノーベ生理学・医学賞受賞、1902年、オイレネー山脈のルルドの聖水の奇跡を確認、報告している。このほか、心霊現象を厳然たる経験的事実として断言している。
ある人は、アレキシス・カレルはレオナルドダビンチに比肩すべき人と言っている。

★渡部昇一 
上智大学名誉教授
1930年山形県鶴岡市生まれ、55年上智大学大学院修士過程、独ミュンスター、英オクスホード大学に留学、Dr、Phil、Dr、Phil、hc(英語学)
著書 「知的生活の方法」、「渡部昇一の昭和史」

はしがき
この本は多くの先達の観察や研究、その努力の結果あきらかになった事実のみを根拠として「人間」についてのスケッチを纏めたものである。
私の勝手な独断は含まれていない。間歇に、幼稚でなく、通俗でなくを心掛けた。
そして、現代文明の欠点と弱さを知ろうと努めた。

第一章
・「死んだもの」(物質)の科学と、「生きたもの」(生命)の科学との間には、不思議な相違がある。人間の概念は神秘に包まれている。あらゆる物質の科学が、人間の科学を追いぬいて発達したことは、人間の歴史の最も悲惨な出来事の一つである。

第二章
・飛行機の発達で、数時間でヨーロッパまで運ぶとしても、それが一体何の進歩であるのか? 益々生産力が大きくなったとことで、人間が要らないものを次第に多く消費するなら、一体それが何の役に立とうか? 

第三章 「肉体と生理的活動」
・近代文明は想像力と知識と勇気に満ちた人物を造ることはできないようである。
あらゆる国において知識と道徳心が、政治、経済、社会の指導階級の間に著しく衰えて行くのが見られる。
近代衛生学が人間の平均寿命を延長したとは言え、病気は少しも減っていない。

第四章「精神的活動」
・精神とは我々をすべての他の動物と区別する特徴である。一体思想という不思議きわまる、そして我々の中に生きているものの本体とは何であるか。それはエネルギーを少しも消費しない不思議なものである。精神は生きているものの内部を自由自在に通過するが誰の目にも見付からない。しかもそれは、この世の中で尤も偉大なる力である。
・直感は実に不思議なものである。実在を推理の助けを借りずに認識するということは、何と不思議なことであろう。
天才は偉大る仕事を仕上げて社会全体を利益する。大衆は極く少数の人々の熱情によって、その知恵の炎によって、その理想によって、その愛と美によって導かれている。

第五章 「内なる時間」
・恐らく人生の始まりがゆるく、終わりが早く見えるのは、何人とも知る如く、子供と老人とでは、同じ一年でも同じ長さに見えないことからくるものであろう。

第六章 「適応の機能」
・ 人間の体を作り上げている物質は、柔らかく変化する物質を有し、そんなもので出来ている人体が、鋼鉄で出来ている場合よりもいっそう長持ちする。
今日の大都会では「適応性」の能力が殆ど働かなくなっている人間が多く、中には悪結果をさまざまと現しているのがある。
そして、何よりも我々の従い守るべきは「努力の法則」である。個人でも民族でも、この大きな必要を忘れると、その罰として身体と精神の退化という代償を支払わされるのである。

第七章 「個人」
・ 「人類」と言うものは自然界の何処にもいない。そこには「個人」が存在しているだけである。我われは事実の世界と、象徴の世界という二つの異なった世界に生きている。我々が抽象的なものと具象的なものと混同することがある。
民主主義は、精鋭な人物の発達を阻止し、そのために文明の劣弱化を来たすことに貢献したのである。個人の不平等が尊重されねばならないことは当然である。現代社会にも、大人物と小人物と中程度の人間と劣等な人間とのそれぞれに向いた職務がある。
普通の人間を養成するのと同じ方法で優秀な個人を作り上げようとするのは、明らかに違っている。

第八章 「人間の再建」
・ 人類が再び発展するためには、人類は自らを作り直さざるを得なくなっている。
この改造は苦しみ無しではできないことで、それは人類が同時に大理石でもあり彫刻師でもあるからである。
優秀者を一代のみに終わらせむためには、優性運動が必要である。一つの人類なり、民族なりが、その優良な分子を再現させねばならなういことは勿論である。
 この明白な理法にかかわらず、今日文明が進んだ国々で、一般に生殖が減じ。生まれる子供にも劣質児が多くなりつつある。