Vol.60紹介 ② — 石飛幸三著 「『平穏死』のすすめ」

夏バテの上に、事務所の改装や、
日常のバタバタが続き、
ブログの更新が延び延びになってしまいました。

今号のメインは、石飛幸三先生への特別インタビュー。
特別養護老人ホーム(特養)で常勤配置医をされているお医者さんです。
その石飛先生が、『「平穏死」のすすめ』と題された本を上梓されました。

石飛先生の言う「平穏死」は、
「穏やかな、自然な、いうなれば神の意志による死」のことです。
その基準は「口から食べられなくなったら、もう先が長くない状態」と明快です。

医学の発達によって、「死」の概念が揺れ動いている今日、
「平穏死」の考え方は、ストンと私の腑に落ちました。

石飛先生が赴任されたばかりの特養では、
入所者の平均年齢90歳、9割が認知症。
3割に嚥下障害があったそうです。
そして、肺炎の原因は大部分が誤嚥性。
それなのに介護保険では、摂食介助は約20分、
介護士の数も足らない現状では、
ゆっくりと慎重に食事の介助は出来ないそうです。
「あと、もう一口」が誤嚥につながるのです。

 「『熱が出た、サァー、大変だ』と救急車を呼ぶ。
 その裏には、人手が足りないという背景もあって、
 病院へ送っておけば夜勤が安心、というところがあるわけです。
 病院は来た患者を診ない訳にはいかない。
 胃瘻にすれば点数になるし……。
 結果、無駄な医療を一杯やってます」。

胃瘻をすれば、誤嚥性肺炎はなくなるのかと考えていたのですが、
違うのですね。量を間違えると、胃が受け付けずに、
気管に逆流して肺炎を起すのだそうです。
ところが、「誤嚥→肺炎→入院→胃瘻」の不毛な繰り返しが
まかり通っているのが現状だそうです。

殆どの入所者が、病院で最期を迎えていたのが、
石飛先生が入られてから、スタッフや家族と状況を共有し、
話し合い、施設での看取りがはじまりました。
平成19年度にはホームでの看取りが8割にまでなったそうです。

高齢のご家族がおられる方は、いつかこの問題に直面されるでしょう。
「口から食べるのはもう無理です。どうされますか?」
今からそのときに備えておく必要があるように思います。

 「入所者に必要な事は、少しでも幸せに一日でも楽しく過ごせて、
 静かに幕を閉じることです。
 食べられなくなったら、その人の生命の限界が来ているということ。
 三宅島では年寄りは食べられなくなったら最後は水だけ与える。
 そうすれば精神が落ち着き、自然に戻ると言われている。
 過剰な栄養や水分はあげない勇気も必要だ」

石飛先生の言葉をじっくりと噛みしめようと思います。