公正な社会とは−教育、ジェンダー、エスニシティの視点から

 人文書院から今年3月に刊行された。本書は「公正な社会」とは何かを、さまざまな視点から論じている。今日、グローバリゼーションの拡大は「公正な社会」を論じる視点も、まさに世界史的、国際的な広がりをもっている。本書はきわめて難しい課題に13名の研究者が挑戦したもので、刺激的である。
 今、私(伊藤)が課題の1つにしているワーキングプアや公契約についても、歴史的にみればジェンダーの視点を欠くことはできない。福祉の課題も、外国人労働者の問題まで拡大している。これからの「社会的公正」を考える上で、ぜひ多くの皆さんに読んで欲しいと思う(伊藤)。

<人文書院から>
 格差社会において再生産される不平等。私たちは、形式的平等を超えた実質的平等を実現するために何ができるのか?
 グローバル化、脱工業化、多文化化の進む現代社会は、その一面が豊かな社会として捉えられこそすれ、均質な社会でも、平等な社会でもない。むしろ異質性・差異と不平等の関係がかつてなく鋭く問われる社会となっている。基本財の配分をもって公正を議論することは限られたアプローチにすぎず、それをどのように越えて質的で、多尺度の成立可能な社会的条件のなかに公正の基準を見出していくか。今日の教育、福祉、社会運動、移民の研究に携わってきた研究者が、「公正な」関係や秩序とは何かを問う。

目次
公正への社会学的問い 宮島喬 
Ⅰ 現代社会と公正
 現代福祉国家のゆくえと公正 田邊浩
 地方分権は公正な社会を可能にするのか 定松文
 個人化社会における再生産 杉原名穂子
Ⅱ 教育における平等と公正をめぐって
 教育におけるジェンダーとペアレントクラシー 中西祐子
 家庭教育への要請と母親の就業 喜多加実代
 多文化社会と教育の社会的公正 鷹田佳典
Ⅲ グローバリゼーションとエスニシティ
 人種的公正の観点からみたアメリカ公民権政策 本田量久
 フランス共和国とエスニック統計 中力えり
 アイデンティティの形成と「本国」イメージの問題 曺慶鎬
 ニューカマー永住外国人と新たな市民権 坪谷美欧子
Ⅳ 開発とジェンダー
 開発・発展におけるジェンダーと公正 佐野麻由子
 開発援助、公正、ステレオタイプ 兼川千春