カール・ロジャーズとともに その1 畠瀬稔他編より

*人間信頼こそすべての基本
来談者中心とか人間中心のアプローチというのは
すべて人間存在の建設的性質を基本的に
信頼しているということです

だから心理治療の中で感情を表明したり
絵や音楽や文章の中で自己を表現したりする時
何が出てこようが恐れないことです

それらは怒りの感情や悲しみの感情、その他の
否定的感情であるかも知れません
しかし、心の底に有機体への信頼の感情があれば
それは建設的な方向、自然に人間が持っている方向へと向かいます

このことを特に言いたかったのは、私の国では
また多分あなた方の国でも人間への不信の態度が優勢だからです

教師は学生を信頼していません
管理者は部下を信頼していません
政府は市民を信頼していません

すべてのことは規制によって指導され、チェックされ、管理されねばならないのです
人間は権威によって統制されるべきである
なぜなら基本的に信頼できないから、と考えています

ですから、この人間中心のアプローチは現代社会にある
諸制度に対する基本的な挑戦でもあります

*アウシュビッツのような非人間的な行動について触れておきたいと思います
私は非人間的な行動の背後にある動機を
全部分かるのだという風をするつもりはありません
正直言って私としてはよく分からないし、当惑しています

ただ、1つの要因としてはっきりしている点は、あのような状況においては
質問をするとか、疑問を感じるとかということはなく
人間は全体に対して一体化して服従してしまうということです
ある秩序に対して人間が何の疑問も感じずに盲従するという時に
あのような犯罪が成立します

私のドイツの友人のラインハルト・タウシュ(ハンブルグ教授)
—この人は第2次大戦の時に生き延びることが予想できないほど
困難な状況において7年間生き延びた人—は
この点についていろいろ考えて次のような結論を導き出しました

即ち,あのような犯罪行為が行われた1つの大きな理由としては
ドイツのきわめて権威主義的な家庭、学校、政府にその根を見出すことが
できるのではないか、ということです
つまり人間は、そのような権威主義的な雰囲気の中で
無条件に命令に服従するのではないか、というのです

このような結論に達したのでタウシュは、教育や心理療法を通して
自主的に思考し、自分で自分の行動を管理することのできる人間が
形成されるような環境を作ることを目指して非常に努力しました

私もやはり彼と同じことを目指して努力しています
自分の可能性を開発し、自主的に考え、自己指示的に行動するような人間を
形成していくことこそ、一連の非人間的な悪循環の鎖を断ち切ることになると思います

<ハナカイドウが咲きました>