慰安婦と兵隊 河上政治(92才)より

黒竜江に近い駐屯地に
遅い春が来たころ
毛じらみ駆除の指導で慰安所に出向いた

オンドルにアンペラを敷いた部屋は
独房のように飾り気がなく
洗浄の洗面器とバニシングクリームが
つらい営みを語っていた

いのちを産む聖なるからだに
ひと時の安らぎを求めた天皇の兵隊は
それから間もなく貨物船に詰め込まれ
家畜のように運ばれ
フィリッピンで飢えて死んだ

水銀軟膏を手渡して去る僕の背に
娘の唄う歌が追いかけてきた

「わたしのこころは べんじょのぞうり
きたないあしで ふんでゆく
おまえもおなじ おりぐらし
いきてかえれる あてもなく
どんなきもちで かようのか
おまえのこころは いたくないか」

<石竹はナデシコに似ています>