本気か?クールジャパン政策
中村 伊知哉 | 慶應義塾大学 教授
2013年5月22日 7時39分 はてなブックマークに追加
政府・知財本部では、今期政策の審議が大詰めを迎えている。私がコンテンツ専門調査会の会長を務めるようになった4年前から、いわゆるクールジャパンは知財政策の柱となっている。
マンガ、アニメ、ゲームに代表される現代流行文化=ポップカルチャーを核としつつ、ファッション、食、伝統工芸、観光など経済・文化全般にわたるソフトパワーを発揮する。特に海外市場を取り込むことがミッションだ。
しかし、取組は十分ではなかった。海外から評価されているポジションを日本は活かせていない。経済的にはコンテンツは成長産業どころか縮小傾向にあり、アニメの制作現場の悲惨さは笑えないギャグネタだ。
政治的にも活用できていない。海外の若い世代にとって日本はソニーやトヨタよりもピカチュウやドラえもんだが、そのソフトパワーを外交に活かせてはいない。
クールジャパンは10年前にダグラス・マッグレイ氏が記した論文「Japan’s Gross National Cool」がキッカケであるし、
ソフトパワーを提唱したジョゼフ・ナイ ハーバード大教授が日本はポップカルチャーの力を活かすべきと提言するなど、この流れは日本が自己評価して進めたというより、海外からの発見が先行したものだ。
国内的には及び腰だった。
安倍政権が誕生し、この認識は改まったかに見える。知財本部とは別に「クールジャパン推進会議」が編成され、ソフトパワーを活かす方策を考えることになった。
コンテンツが一つの政策ジャンルになって20年近くたって、政府は一段と高いギアに入れることにした。
しかし、下手をすると、歌舞伎や華道や佐渡おけさを海外に紹介するという懐かしい政策に陥りそう。事実、そうした雰囲気も漂っていた。
政府もより日本が強みを発揮できる政策を求め、更に「ポップカルチャー分科会」を置いて海外への発信策を練ることにした。
私がその議長を務め、4月30日には「飛び出せ、日本ポップカルチャー。」と題する提言をとりまとめた。キーワードは、「みんなで」「つながって」「そだてる」。
「参加」(短期)、「融合」(中期)、「育成」(長期)の三策を講ずるというものだ。
インターネットで多言語発信し、内外でイベントを開き、交流できる場や特区、さらには「聖地」を形作る。一流のクリエイターやプロデューサを育てる。
子どものポップな創造力と表現力を育み、誰もがアニメを作れて作曲ができるようにする。といった施策を念頭に置いている。
特に、「政府主導ではなくて、みんな」で推進するという視点を強調した。
これを具体化し、成長戦略につなぐことができるか。政府の本気度が問われている。
難問である。クールジャパンやコンテンツを話題にすると、「そんなの国のやることかよ!」という声が必ず飛び交う。
マンガ、アニメ、ゲームの海外人気が認知されたとはいえ、未だサブカル扱いなのだ。
そう、国のやることだ。これは特定産業の育成策ではない。コンテンツを支援するのは、外部効果が大きいからだ。
コンテンツ産業の売り上げを伸ばすというより、コンテンツを触媒として、家電や食品や観光などを含む産業全体、GDPを伸ばすことが狙い。
むろん、ナイ教授のいうソフトパワー、つまり文化の魅力で他国を引きつける政治学的な意味合いもある。
ただ、カネの使い方は要注意。コンテンツ政策への風当たりは、「予算」に向けられる。間違った業界にカネが流れ、ダメやヤツを温存してしまう。
あるいは、かつての「アニメの殿堂」のように、コンテンツやヒトではなくハコに回ってしまう、といった批判だ。