中東のシリアを米国がミサイルで攻撃しようとしています。シリアでは2年以上も政府軍と反体制派の内戦が続いているのですが、なぜ中東から遠く離れた米国が今、シリアを攻撃するのでしょうか?
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理由は「化学兵器の使用」
きっかけは化学兵器による被害です。8月21日、シリアの首都ダマスカス近郊で毒ガスがまかれて大勢の市民が死んだりけがをしたりしました。米国はこれをシリア政府軍の仕業だと断定し、罰を与えないといけないというのです。
シリア内戦では銃や砲弾などの通常兵器ですでに10万人以上が死亡しているのに、これまで米軍がシリアを攻撃したことはありません。なぜ化学兵器を特別扱いするのでしょうか。
化学兵器とは核兵器のような大量破壊兵器の仲間。一度に多くの人を殺すことができる非常に危険な兵器なので、たとえ戦争中でも使ってはいけないとされているのです。日本のオウム真理教が1995年に東京の地下鉄にまいた神経ガスのサリンも、化学兵器の一種です。国際的にはジュネーブ議定書(1928年発効)が化学・生物兵器の使用を禁じているほか、化学兵器禁止条約(1997年発効)が化学兵器の開発・生産・貯蔵・使用を禁じています。シリアはジュネーブ議定書の締約国です。
オバマ大統領の「越えてはいけない一線」
オバマ米大統領は、化学兵器の使用は「越えてはいけない一線」としてシリアに繰り返し警告してきました。それは「一線を越えたら軍事介入するかもしれないぞ」という意味にも受け止められました。そして今回、一線を越えたと判断したので、米国としてはもう後に引けない状況になったのです。
米国は、シリア政府に罰を与えるとともに、二度と化学兵器を使わせないために攻撃すると言っています。でも化学兵器を使ったからといって外国が軍事攻撃してもいいという法律はありません。
シリアへの軍事攻撃は合法?
どこかの国に対して武力行使をするには国連安全保障理事会の決議が必要とされています。いわば国連のお墨付きです。しかし、シリアの同盟国であるロシアと、外国への介入を嫌う中国が反対することは確実なので、米国は安保理決議がなくても攻撃に踏み切る構えです。
そうした安保理決議なしの武力行使は国際法上の合法性が疑わしいとの声が上がっています。一方で、大規模な人的被害を防ぐという人道上の理由で「違法だが正当」な攻撃をすればいいという人もいます。
2003年のイラク戦争では、イラクが大量破壊兵器を持っていると米国が断定して戦争を始めたのに、実際には大量破壊兵器はありませんでした。それだけに今回は、シリア政府軍が化学兵器を使ったという証拠の信頼性が特に問われるでしょう。