クロマグロ、完全養殖成功の衝撃〜広がる関連ビジネス、低価格化や和食の世界進出に貢献も【この記事のキーワード】クロマグロ , 食品 , 養殖 2014.01.22
「近畿大学水産研究所HP」より サシの入り方が美しいことでも知られるクロマグロ。
口に含むととろけるような脂の甘みが特徴であり、超希少種としても知られ、大トロの寿司ともなると2貫で最低でも2000円以上はする最高級魚だ。
そんなクロマグロの完全養殖を成功させたのが、近畿大学水産研究所のひとつ、和歌山県串本にある大島実験場だ。
近畿大学の名前を取り「近大マグロ」と呼ばれる完全養殖クロマグロは、ほぼすべての魚の完全養殖が成功している中、果たせぬ夢として世界中の研究者が狙っていた“最後の大物”だった。
誰もが不可能に近いと思われていたクロマグロの完全養殖化への道のりは困難を極め、近畿大学は成功させるまでに実に32年もの年月を要した。
近畿大学水産研究所が「完全養殖」の研究を開始したのは1970年。
海で泳ぐ天然マグロの稚魚や幼魚を捕獲し、養殖する「蓄養マグロ」に対し、「完全養殖」とは、最初から人工孵化で育てた親魚が産んだ卵を孵化させたものを指す。
完全養殖は、希少なマグロの天然資源を保護し、産卵コントロール技術により不安定供給問題を解消し、生産効率を上げる画期的手法だ。
近畿大学が研究に着手するきっかけとなったのが、水産庁が複数研究機関による3カ年のマグロ養殖プロジェクトを開始したことだ。
クロマグロの天然稚魚や幼魚はイケスへの活け込み後の生存率が極端に低く、手でつかんだだけでも死んでしまうほどに皮膚が弱い。
非常に繊細で、船のエンジン音や水の濁りですらパニックを起こし、イケスの網に衝突しては死んでいく稚魚も後を絶たない。完全養殖の研究は、実際相当な問題が山積していたという。
その結果、プロジェクト終了後、他研究機関はいずれも養殖技術開発から撤退。研究続行を決めたのは近畿大学のみとなった。
近畿大学はもともと生物の適応性に関する実験を得意としており、さまざまな魚の完全養殖産業化を成功させ、現在の養殖手法のベースとなった技術と経験を有していた。
あらゆる問題点を根気よくクリアし、待望の完全養殖によるクロマグロの孵化に成功。
この快挙は、文科省認定の世界最高水準研究教育拠点づくりを推進する「グローバルCOEプログラム」に選定された。
そもそもなぜ水産庁がプロジェクトを打ち出したかというと、世界一のマグロ消費国である日本がマグロを乱獲し、天然資源を減少させたことに端を発する。
10年、カタールのドーハで開催されたワシントン条約締約国会議で、大西洋、地中海産クロマグロの国際商業取引を原則的に禁止するモナコ提案が協議されるに至ったほど、世界的にマグロの資源減少は問題視されている。
このため、クロマグロの完全養殖は、マグロの天然資源を保護し、産卵コントロール技術により不安定供給問題を解消、生産効率を上げる画期的手法として世界中から注目を集めている。