国宝『源氏物語絵巻』を読み解く〜柏木(一)を中心として〜

(%紫点%)前期講座(文学・文芸コース)の第2回講義の報告です。
・日時:3月13日(木)午後1時半〜3時半
・会場:すばるホール(3階会議室) (富田林市)
・演題:国宝『源氏物語絵巻』を読み解く〜柏木(一)を中心として〜
・講師:浅尾 広良先生(大阪大谷大学教授)
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**『源氏物語絵巻』平成復元模写プロジェクト**
現存する『源氏物語絵巻』は19図で、名古屋の徳川美術館と東京の五島美術館に所蔵されています。現存する作品は、色が褪せ、剥落が進み、当時の面影はない。平成11年から17年にわたり、「源氏物語絵巻・復元模写プロジェクト」で、できるかぎり原本と同じ素材・同じ技法で製作するという基本理念のもとに、19図すべての絵巻が完成。→講義では、現存するものと復元模写したものを、比較しながら鑑賞します。

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(%エンピツ%)講義の内容
第一部最後(藤甫葉巻)から第二部(若菜上・下巻、柏木巻)のあらすじ
・光源氏41〜47歳、女三宮15〜22歳くらい、柏木25〜32歳くらい
・栄華をきわめた光源氏(准太上天皇=上皇に準ずる地位まで到達する)に、朱雀院(源氏の兄)の女三宮が降嫁する。光源氏は女三宮が全くの子供で興味が失せてしまう。一方、柏木は、桜の満開のころ、六条院(源氏の邸)で行われた蹴鞠の日に、女三宮を垣間見てしまう。柏木は女三宮への思いを募らせ、とうとう密通に至る。ところが、柏木の手紙が源氏に発見され、二人の密通は源氏の知るところとなる。まもなく女三宮は男子を出産する。女三宮は出家を望み、源氏これに苦慮する。
・【柏木(一)】…朱雀院が下山し、女三宮を出家させる。六条御息所の物の怪が出現する。
・【柏木(二)】…柏木、夕霧に後を託して死去する。
・【柏木(三)】…若君の五十日の祝儀、源氏感慨に沈む。

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柏木(一)
①女三宮、男子を出産する。(*右の文章を参照)
《要約》「夕方から女三宮は一晩中苦しんで(陣痛を覚えて)、朝日が昇るころ、男の子(薫)が誕生した。女ならば似たとて大勢の人に見られる機会が少ないのにと源氏は口惜しく思ったが、これも昔の罪の報いだと思って(源氏は、若きころ藤壺と密通して、不義の子冷泉帝の秘事を思い起こして、報いがこれなのであろう)諦めるしかほか仕方がなかった。」
②女三宮出家を望み、源氏これに苦慮する。(-文章は省略)
(要約)「源氏の君は、その真実を知りながら、わが子として薫を養育しますが、内心はうとましく思っていた。薫を抱き上げる気にもなれず、女三宮に対しても冷淡にならざるを得ない。女三宮は、産後の肥立ちも悪く、良心の呵責にも悩み、出家を志すが、源氏は思いとどまらせようと苦慮する。」
③朱雀院が下山し、出家させる。(-文章は省略)
(要約)「女三宮の発心に驚かれた父・朱雀院は、六条院(源氏の邸)に女三宮を見舞われ、出家を見合わせるように諭される。真相を父に告げることもできず、悩む女三宮。源氏が冷淡なのかと思い巡らす朱雀院。若い身空での出家を思いとどまらせようと苦悩する源氏。…だが、女三宮の決意は堅く、ついに朱雀院も尼になることをお許しになる。」
④六条御息所の物の怪出現する。(-文章は省略)
「女三宮が急に大人びて自ら出家をしたいと自己主張するようになったのは、六条御息所の物の怪(怨霊)のせいであることが明らかとなる。」


国宝『源氏物語絵巻』〜柏木(一)〜
・現存する柏木(一)は、右のように、色が褪せていますが、かなり綺麗に残っています。→これは、物語が不義・密通なので、『絵巻』を人に見せなかったと思われる。(浅尾先生)
(注)現存しているのは54帖の19図だけ。→よく読まれた『絵巻』は、破れたり、色が褪せたり、剥落したりして、残っていない。

「復元模写プロジェクト」〜柏木(一)
・全体を俯瞰する視点で描かれている(吹抜屋台の構図)。
「爽やかな緑の畳に、オレンジ色の鮮やかな几帳、そしてその周りを囲むように黄とオレンジを主とした十二単のの女房達。ところが絵の左側の四つの几帳に囲まれた空間にいる人だけが、モノクロなのです。そして3人(朱雀院・光源氏・女三宮)とも泣いています。」

・場所:源氏の邸。六条院の一室
・人物…[左端]:帳台の中で横たわって、袖で顔を覆う女三宮。[手前」:左手で数珠を持ち、右手で涙を抑える黒染めの法衣姿が朱雀院。烏帽子直衣姿、右横顔を見せ、左袖を顔にあてているのが光源氏。
・二種類の畳…高麗縁(こうらいべり)の畳と繧繝縁(うんげんべり)の畳
・二種類の几帳…朽木几帳と美麗几帳(女三宮の座を御帳台の下に、美麗の几帳で整え、朱雀院と光源氏の対面の場を几帳で囲み、間に板間が描かれている。几帳の外に、女三宮の侍女たち四人。
・一番奥にあるのが女三宮の御帳台(ベット)