兵庫・灘の酒、キレの秘密は奇跡の「宮水」

兵庫・灘の酒、キレの秘密は奇跡の「宮水」
湧水守る取り組みも

■3つの伏流水がブレンド

 済川さんによると、縄文時代、宮水の井戸群がある北側は現在の市役所付近まで入り江の海だったという。そして、宮水は北から流れる札場筋(ふだばすじ)伏流、遠く武庫川水系に源流を持つ東の法安寺伏流、六甲山方面から流れる西の戎(えびす)伏流の3つの伏流水が混じり合ってできるという

 法安寺伏流と札場筋伏流はかつて海だった地層を通るため、リンやカリウム、塩分など生命の母なる海が持つ栄養分をたっぷり含む。西の戎伏流は六甲山からの傾斜で流れが速く、酸素を多く含み2つの伏流水とぶつかる

 酸素は酒造りの大敵である鉄分と結合し、酸化鉄を形成して除去する。こうして、酒造りに必要な養分を含みつつも、鉄分が少ない宮水ができあがる。宮水が「天与の霊水」と呼ばれる由縁だ。

■港湾整備や建築工事の影響も

 井戸は海水の影響を受けやすい。これまで港湾整備や台風などの影響で塩分の濃度が上がり、宮水が湧く地域はだんだん減ってきた。建築工事の掘削による影響もある。2キロ離れた工事現場の揚水の影響で水位が1メートル以上下がったこともある。宮水は伏流水と海水の浸透圧のバランスが大切。伏流水の水量が減ると、塩分が増え酒造りに使えなくなる。

 酒造会社や市は「宮水保存調査会」を結成。建物などを建設する際、井戸に影響が出ないよう建設会社などと協議する。ある大規模マンションの工事では酒の仕込みの時期を避け、地下駐車場の位置を変更して影響を食い止めたこともあるという。

 済川さんは「宮水は自然がつくり出すが、守るのは人。都市化が進む中、保護の取り組みを続けていかなければならない」と強調する。
(大阪地方部 泉延喜)

[日本経済新聞大阪夕刊関西View2014年3月11日付]