ホントが知りたい 食の安全
漁業再生のカギは「家庭料理」にあり
ホントが知りたい食の安全 有路昌彦
■味の多様性、技術と文化の継承
そして学生に聞いてみるといろいろなことがわかります。魚のさばき方は、お父さんに教えてもらった、という学生がほとんどです。一方、味噌汁の作り方など多くの家庭料理はお母さんから教えてもらったそうです。私もそうですが、いつの時代も同じなのでしょう。
魚を料理する場合、基本的に三枚下ろしの後、皮引き、腹骨そぎ、骨抜き、刺身、という流れがあって、使う包丁も違いますし、慣れれば魚の大小関係なく(巨大なマグロはちょっと無理ですが、ブリくらいまでなら大丈夫)さばけるものです。
普段から料理をされる方なら、1週間くらい何匹もさばけば一通り魚のさばき方を身につけることが可能です。私も料理実演つきの講演をしたこともあって、会場の方もすぐに技術を身につけておられました。
「料理の技術」は両親から受け継ぐ機会が多いと思います。こういった中には家庭に伝わるあらゆる工夫があり、味の多様性につながり、また食文化の本当の基盤にもなります。惣菜や外食も利用しますが、家庭での料理には、こういった技術の継承と文化の継承という極めて大きな機能が含まれているのです。
この技術が伝わってこそ、地域の様々な食材が、おいしい料理になるのです。おいしい料理にする人がいなければ、どんなに素晴らしい食材も取り引きされなくなり、価格は下がり、生産者はやがて生産をやめてしまいます。
つまり、家庭で料理をすることには、生産から流通までつながった経済を支えているという意味も含まれているのです。このように考えると、料理をしてくれるお母さんやお父さんの経済学的価値は極めて大きなものであると思うのです。
有路昌彦
近畿大学農学部准教授。京都大学農学部卒業。同大学院農学研究科博士課程修了(京都大学博士:生物資源経済学)。UFJ総合研究所、民間企業役員などを経て現職。(株)自然産業研究所取締役を兼務。水産業などの食品産業が、グローバル化の中で持続可能になる方法を、経済学と経営学の手法を用いて研究。経営再生や事業化支援を実践している。著書論文多数。近著に『無添加はかえって危ない』(日経BP社)、『水産業者のための会計・経営技術』(緑書房)など。
[ecomomサイト2013年6月4日付記事を基に再構成