アジア通販】銀座で農業をブランド化、海外へ産直便[経済]
香港 – 2014/04/04(金)
第6回
世界中の高級ブランド店が軒を連ねる銀座。その玄関口、JR山手線有楽町駅前では週末に3年ほど前から独特な光景が見られるようになった。駅前ビル1階の広場に、有機・無農薬中心の青果物を売る露店20〜30軒が集まる。繁華街を行き交う人たちが足を止め、見入る。各店を回るにも肩をぶつけ合わずには歩けない活況ぶりだ。
「農業と対極にある場所から農業を発信したかった」。仕掛け人はベンチャー企業の銀座農園(東京都中央区)。青果物を生産・販売するほか、飲食・小売店舗を運営する。この露店市場「ファーマーズ・マーケット」は2010年から始めた。遠くは熊本や青森、近くは鎌倉の多種多彩な野菜・果物が並ぶ。
■東京の一等地で付加価値
社長の飯村一樹氏は茨城県出身。実家は田畑に囲まれていた。父は毎年自家製ワインを作り、祖母は「ホウレンソウは根が赤いのがおいしいんだよ」と教えてくれた。大学卒業後は不動産会社で一級建築士として働いていたが、幼少から慣れ親しんだ農業を「元気付けたい。付加価値を乗せ、ブランド化したい」と起業に転じた。農業は成長産業だともてはやされる前で、業界を包む空気を表現するなら「曇り」。関係者の間には沈うつさが漂っていた。
同社はまず09年、銀座一丁目に小さな水田を設けた。土は飯村氏の実家から運んだ。全国のコメ農家88軒から数万円ずつの協賛を得て、銀座でコメを作り、街ゆく人に直売した。渋谷区表参道にあるビル屋上で菜園も開いた。英紳士・婦人服ブランド「ポール・スミス」が隣のビルに店を構えていた。ナスやネギ、葉物野菜、ハーブなどの栽培を体験できる場は、農業に興味はあるが触れたことがない働く女性らを味方に引き寄せた。今は米国での事業展開を探っており、「シリコンバレーからも発信しようと真剣に考えている」(飯村社長)。
大都会のど真ん中から世に問うた農業は日本国内よりむしろ、韓国や台湾、中国のメディアから強い関心を呼ぶ。先進的な都市農業と注目され、一時は毎週のように取材対応に追われた。
シンガポールの華字紙「聯合早報」が銀座農園を取り上げた記事が、地元の財閥の幹部や政府関係者の目にもとまる。もともと香港やシンガポールへ売り込む構想があったが、東日本大震災後の混乱で棚上げになっていた。何度か訪問し人脈ができたシンガポールで日本の青果物のインターネット通販とトマトの栽培に乗り出すことになる。
■食味良いものに国境なし
シンガポールでネット通販を始めたのは13年夏のことだ。野菜の詰め合わせや月ごとに選ぶ旬の果物のセット「瀬戸内産直便」の産地は、「温暖な気候とほどよい降雨量のため、年を通じて生産が安定し、質もいい」(飯村社長)。香川県三豊市にある産地直売所から仕入れ、毎月2回の頻度で届けている。
同所の責任者からは「地元だけで十分に需要がある。間に合っているよ」と断られた。しかし、おいしいものを多くの人に届けたいと自らの理念をぶつけて口説いた。食味の良いものに国境はない。3月下旬までの受注分は、サツマイモやシイタケ、細ネギなど10種類のセット、かんきつ類セット(みかん、デコポン、いよかん)を用意した。価格は98Sドル(約8,000円)に設定している。
シンガポールではデパ地下やスーパーの店頭にも日本産の青果物が並んでいる。「小売店に比べて価格を抑えているし、鮮度も高い。勝負できる」。飯村社長の勝算の裏側を探った。
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