『興福寺阿修羅像とその源流』

(%緑点%) 2012年「前期講座(歴史コース)」(3月〜7月:全15回講義)の第1回講義の報告です。
・日時:3月6日(火)am10時〜12時10分
・場所:すばるホール(3階会議室) (富田林市)
・演題: 『興福寺阿修羅像とその源流』
・講師:山岸 公基先生(奈良教育大学教授)
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*[興福寺阿修羅像について]
・右の写真は、「天平の阿修羅再び」(関橋 眞理編著・日刊工業新聞社2011年発行)の最初のページに掲載されている阿修羅立像です。
・「阿修羅」…インドの神話に出てくる異教の神で、怒りや争い、戦いなどが好きな鬼神(きじん)のことを言う。仏教を護る八人の善神(ぜんしん)となり八部衆(はちぶしゅう)と呼ばれる。
・興福寺の阿修羅像は、手も足も細く、長くしなやかにつくられ、その顔立ちにも少年のような親しみやすさがあります。しかし、よく観ると、眉を寄せて何か苦しみに耐えているような、厳しさのある顔につくられ、正面を向く顔の両側に別にもう一つずつ違った顔があり、腕は六本、つまり「三面六臂」という超人的な姿をしています。
・“優しい少年のような紅顔が眉根を寄せ、憂いを含んだ阿修羅像”、“一見爽やかな優美の奥に秘められた強靭な厳しさ”、”六本の腕のバランスは美しく整っており、見る人を誘いこむような魅力”…など多くの人を惹きつけている仏像です。

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(%エンピツ%) 講義の内容
1.阿修羅の基本データ
・奈良・興福寺の脱活乾漆(夾紵)造りの阿修羅像(三面六臂。八部衆・十大弟子像のうち。像高153.0cm))は、日本の8世紀前半彫塑を代表する名品。
・仏師将軍万福等の制作
・阿修羅を含む興福寺の十大弟子・八部衆像は、光明皇后が母橘三千代の冥福を祈って造立を発願し天平六年(734年)に完成した。
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2.「阿修羅の手」(『月刊奈良』平成10年10月山岸教授 稿)
・「胸前で合掌する手は20世紀初の修理時の改変であり、もともと胸前に持ち物(法螺貝・輪などの可能性が考えられる)を持つ姿であったと考えられる」。(山岸教授の説)
・右上のプロジェクターの画面の右側が「明治修理前」の写真、左側が「現状」の写真です。・・・山岸教授は、明治修理以前の写真を熟覧して、大きな変更【両第一手の肩での角度が現状と異なっている点を指摘】→興福寺曼荼羅も阿修羅は合掌していない。また、中国・四川省の仏教遺跡(広元千仏崖)での阿修羅像の中に、両第一手を合掌手とするものとならんで、右第一手の掌を胸前で仰いで法輪を載せ、左手先は掌を立ててこの法輪にそ添える作例が複数見られる。

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3.阿修羅像の源流
(1)興福寺阿修羅像の特色
・「三面で日月を上方にささげる像容」
(2)インド → 中央アジア → 中国 → 日本
インドの「シヴァ神像」(ヒンドゥー教の強力な神)が三面で古く(4世紀頃)、中央アジア/東アジア(ダンダンウイリク・キジル・敦煌・雲岡石窟など)の5〜6世紀を中心とする時期の美術に、シヴァの図像として広く分布。
北魏(509年)中国甘粛省・慶陽北石窟寺第165窟の石造阿修羅像(三面/四臂)が興福寺阿修羅像の現在最古の確実な例となる。
(3)西方の多面多臂像の影響
・エジプト第18王朝(紀元前14世紀)の「チョウヤのミイラマスク」(阿修羅立像の顔の若さ、夾紵(きょうちょ=布どうしをはさんで作る)による制作)、「太陽神を礼拝する王と家族」(両手をかかげ、日と月を上方にかかげる)の影響

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4.まとめ
興福寺阿修羅像の美しい面貌の背後にヒンドゥ−教の最高神や、はるかエジプトの面影を認めるのも、あながち的外れではないであろう

*今日は、シニア文化塾では初の”仏像に関する講義”でした。約 1280年前に造られた仏像が、いまなお、多くの人を惹きつけている背景(源流)を学ぶとともに、山岸教授の研究による成果(阿修羅の手)を知り、より興福寺阿修羅像のすばらしさ・深さを感じました。

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(%ノート%) 前期講座(歴史コース)の次回講義(案内)
・日時:3月13日(火)am10時〜12時
・演題:日本近現代史「日清戦争」
・講師:原田敬一先生(佛教大学教授)
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