「五世紀の雄族・葛城氏の誕生」

(%緑点%)平成27年前期講座(歴史コース)(3月〜7月:全15回)の第1回講義の報告です。
・日時:3月3日(火)am10時〜12時
・会場:すばるホール(3階会議室)(富田林市)
・演題:五世紀の雄族・葛城氏の誕生
・講師:平林 章仁先生(龍谷大学教授)
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**古代豪族・葛城氏**
五世紀にヤマト王権の内政・外交を主導し、天皇(倭国王)と並ぶ権勢を誇った葛城氏。一族の女性たちを次々に入内させ、天皇家の外戚となるも、五世紀末期頃に忽然と滅亡した葛城氏。その滅亡は『古事記』『日本書紀』には記載がなく、謎とされる。
謎の古代豪族・葛城氏について、数回の講義を予定。今回は、第一回で「葛城氏の誕生」。

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(%エンピツ%)講義の内容
1.邪馬台国のあと
倭国の諸地域を統合して成立したヤマト王権の、四世紀の情況は、先進文物の取得を目指し百済や伽耶地域と連携を深め、新羅にもしばしば侵入し、南下策を採る強国・高句麗と衝突することも少なくなかった。
「七支刀」 (しちしとう)(奈良県天理市・石上神宮所蔵)
対高句麗戦と課題を抱えた百済側が、東晋、次いで倭国と親密な関係を結ぼうという意図が読み取れる。(中国・東晋の太和四(369)年とみられるときに百済王が倭王のために造ったという文字が象嵌された。)
「高句麗好太王碑文」(中国吉林省集安市)
長寿王が父王のために414年に建立。好太王碑文によると、水軍と歩兵が主力とみられる倭(ヤマト王権)軍は、400年、404年と高句麗軍に連敗している。(高句麗軍は、遊牧民族で、騎馬兵を主力。)

2.五世紀は積極外交の時代(*右の資料を参照)
倭の五王−『宋書』倭国伝
『宋書』には、いわゆる倭の五王(讃・珍・済・興・武)の遣使が記録。…「421年倭国王の讃(さん)が、使者を派遣して貢物を献上したと記している。これ以降、倭国王は、478年までの間に、宋へ少なくとも10回も遣使朝貢を繰り返している。」
・倭国の意向…①高句麗と対抗するためには、中国のお墨付き。 ②朝鮮半島における権益(軍事行動、鉄などの先進文物の入手)を認めてもらう。
(注)南朝の「宋」→中国は、南北朝の時代。北部から異民族が侵入し、漢民族は南部に移動。

3.葛城氏の祖先
・葛城氏は、建内(武内)宿禰(たけしうちのすくね)の後裔氏族で、葛城氏の祖とされる『紀』の葛城襲津彦(かつらぎそつひこ)は建内宿禰と父子関係にあると伝えられている。
・『古事記』『日本書紀』によれば、葛城襲津彦の女の磐之媛(いわのひめ)(石日売命)は、仁徳天皇の皇后(大后)となり履中・反正・允恭らを生んだ。
『古事記』孝元天皇段(*右上の資料を参照)
詳細な建内宿禰の後裔(こうえい)系譜記事を載せており、これによって葛城氏の出自を知ることができる。右上の資料で、建内宿禰の子は九人で、葛城長江曾都毘古(かつらぎのながえのそつびこ)が『紀』の葛城襲津彦である。
(注)ただし、これらの氏族が実際に血縁関係にあったかは疑問とされている。おそらくは、ある時代における政治的な盟約・連携関係を同族系譜に仕立てたものであろう。)

4.葛城氏の誕生
葛城氏の祖とされる葛城襲津彦は、『日本書紀』神功皇后から仁徳天皇に至るまで活躍したと記載。
神功皇后五年三月条(*右の資料を参照)
葛城襲津彦が、先進技術者(桑原・佐糜(さび)・高宮・忍海(おしぬみ)の四邑の漢人(あやひと)の始祖)を連れ帰った記事。
神宮皇后六十二年条(資料は省略)
新羅が朝貢しなかったので、葛城襲津彦を遣わして新羅を撃った記事。同条の分注に引く『百済記』には、壬午年(382年)に新羅が貴国(かしこきくに)(倭国のこと)に朝貢しなかったので、貴国は沙至比跪(さちひこ)を派遣して討伐させた。(葛城襲津彦は沙至比跪に擬定。襲津彦が4世紀末−五世紀初頭の実在の人物であった可能性が大きい説が有力)。
応神天皇十四年是歳条・十六年八月条(資料は省略)
秦氏の渡来と葛城襲津彦の記事。
仁徳天王四十一年三月条(資料は省略)
百済王の無礼と葛城氏。百済王は、王族酒君(さけのきみ)は、無礼だったので、鉄鎖で結わえ襲津彦に付して進上したが、石川錦織首許呂斯(いしかわのにしこりおびところし)の家に逃れ隠れた。→「石川錦織」が記載!。
*参考資料:『.謎の古代豪族 葛城氏』(平林章仁著、祥伝社、2013年7月)
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**あとがき**
○平林先生の講義は、今回で10回目の講義となります。
第1回(平成22年9月)「奈良時代の錬金術師と預言者」
第2回(平成23年3月)「三輪山の古代史」(1)
第3回(平成23年9月)「三輪山の古代史」(2)
第4回(平成24年3月)「古事記と日下」
第5回(平成24年11月)「三輪山の古代史」(3)
第6回(平成25年3月)「三輪山の古代史」(4)
第7回(平成25年9月)「天皇は日の御子か」
第8回(平成26年3月)「古代の相撲とその起源」
第9回(平成26年9月)「古代国家と神祇祭祀−祈年祭の起源」