1.大江教室が始まりました—Uさんの役割

1.大江教室が始まりました—Uさんの役割

8月27日から始まった北部大江地区の「脳いきいき元気アップ教室」(毎週1回16週連続)は、久しぶりに19人のお仲間さんを迎えた大所帯となって、ボランテイアたちを喜ばせました。

そのせいか、中央の応援ボランテイアも常に10名前後が参加し、大童で何とか日程をこなしていくことが出来たのです。

お仲間さんは、皆さんお元気で、よく笑い、賑やかではありましたが、それぞれ、自分の年齢から来る物忘れや身体的な症状に何らかの不安を感じている方も多く、このゲームが認知症予防にどのような効果をもたらせてくれるのか、どの部分に効果があるのか 教えてほしいという質問も飛んで、熱心且つ活気に満ちた教室となりました。

 「メモ魔」と自称されるIさんは、常にノートとボールペンを離さず、それでいて、ゲームもちゃんとこなしていく器用な方であり、「夢の旅行」の行き先や、お土産をインターネットで調べて写真入りで丁寧に記録して次の週には持ってきてくださり、茶話会では、みんなで楽しませていただきました。

「このごろでは、インターネットもちょっとご無沙汰していて、まごつくこともありましたが、今ではすっかりもとどおり」—だそうです。

 45年京都に住んでおられたMさんは、行き先が「京都のお寺」であった翌週「これで多分三分の一くらい」とぎっしり10枚に書き込まれた資料を作って、お仲間さんとスタッフ30人分をどっさり持参してくださいました。

 そんな中でUさんは、過去に「欝」の病歴があったという方で、表情は暗く俯向きがち、ほとんど話もされず、スタッフにとってもお仲間さんの間でも“気になる存在”でした。

3度目の教室、「お手玉回し」の最後に全員が、一つずつ持ったお手玉を、中央に置かれた小さな箱に投げ入れたあと、箱に入らなかったこぼれたお手玉を一つずつ拾って数える役を輪の中に居た若いボランテイアに頼んだところ、隣に座っておられたUさんがすばやくつっと進み出てこぼれたお手玉を一つずつ高く持ち上げては箱に投げ入れはじめられました。

みんなは、ちょっと戸惑いましたが、リーダーの声に合わせて「ひとーつ、ふたーつ」と数え始め、全部拾い終わった瞬間「Uさんオーキにご苦労さん」と拍手をし、Uさんはちょっとはにかんだ笑顔で、席に戻られました。

それ以後、みんながお手玉を投げると間髪を入れずすぐUさんが進み出て、Uさんはすっかりこぼれたお手玉の拾い役・数の数え役となられました。 

最初の2,3回は、みんなが数え始める前に、箱に入れてしまったり、2個いっぺんに入れたりしておられましたが、みんなも委細かまわず、声をそろえて、数えていきます。

お仲間さんもスタッフも、お手玉の数を正確に数えなおすより、Uさんに気分よく拾い役を務めてもらうほうが大切であることが、自然に理解されていた—–“優しさのシャワー”の具現化の何よりの学習であったと思います。

 何回かすると、お手玉回しが終わって、お手玉をいくつも溜めてしまった方から溜まったお手玉を集めて全員に一つずつ配って歩くのもUさんの役割となって、お手玉をたくさんためた人は、「ハイお願い」、とUさんに丁寧に渡し、もらった人も丁寧に優しく「ありがとう」と受け取るというパターンがすっかり定着しました。

いつも一番たくさん溜めてしまうUさんが、自分の溜めたお手玉や人の溜めたお手玉を集めて、小腰をかがめて小走りに配っていかれる笑顔は、少し恥ずかしそうではあっても本当に輝くように美しく明るくその場はその日の一番ステキなシーンとなっていました。

Uさんの手は、何かしようとされると細かくふるえるのですが、お手玉を床から拾って高く掲げて箱に入れられる手は震えながらもきっちりとメリハリのある仕事をしているのです。

 Uさんはそれ以来、控えめで静かながら、驚くほど話をされるようになり、私たちは、Uさんが一人暮らしではあってもご家族、特にお子様方が、たびたび訪問され、一緒にお芝居や音楽会にも行かれること、お孫さんの結婚式には、東京まで行こうと誘われていることなどを知ってなんとなく安心できるようになっていきました。

 Uさんはいつも時間きっちりに教室に来られますが、時々顔が見えないときもあります。

職員が思い切って電話をすると「忘れていました」、といって飛んでこられました。

Uさんのお宅は、“とても不便な”ところで、車で来るしかないので、Uさんは自分で運転してこられます。

呼び出して事故でもあったらと職員も私たちも心配してためらう気持ちもあり、送迎車に乗るように勧めてもお迎えに行くといっても、断られて、運転してこられるのです。

駐車場の狭い隙間に自分の車をバックで上手にまっすぐに駐車される手際はなかなかのものです。

“これがUさんのステータスかも”とも思いますが、やはり、一抹の不安は拭いきれず、教室が終わったときは正直ほっとしたものでした。

 こんな教室の最終の日の夢の旅行、今日はとにかく行きたいところをどんどん出していただきましょう、とマイクを向けられたUさんは、震える手でマイクを持ちながら

「ここに来たいです。何べんでも何べんでも、何べんでも、ここがいいです」

と小さな声できっぱりといわれました。

一瞬、シンとした教室は、いっせいに大きな拍手に包まれ、しばらく鳴り止むことがありませんでした。

北部教室最後のメッセージであり、私たちへの何よりも貴重な贈り物でもあり、心にしみる“優しさのシャワー” でした。