THE BIG ISSUE JAPAN 269より

自閉症の僕が生きていく風景 
東田直樹×山登敬之 往復書簡

繊細で複雑な人間の心を元の状態に戻そうと
するのは、難しい治療だと思います

なぜなら、人の心は変化し続けるものです
どうなれば、いつもの自分なのか
治ったと自覚できるのか、わからないの普通ではないでしょうか

日々人間は変化し続けるものです
そのため、治療前と同じ状態になったとしても
それはスタート時点に戻ったのと同じです

本来であればいろいろな経験をしながら
少しずつ新しい自分に到達していたはずだからです

周りからすれば、その人の病気は治っているみたいに見えるのに
本人だけが、まだまだ完治していないと感じるこの差は
こんな理由もあるのではないかと思っています

人間はいつも不安と戦ったいます
平和や調和こそ安全で安心できる世界だと信じているのかもしれません

自閉症者の内面も同じような気がします
僕は自分の心を守るために、毎日右往左往しているだけなのです

それを滑稽だとか、奇妙に感じる人もいるでしょう
僕はみんなに迷惑をかけたいわけではなく
心穏やかに生きたいと願っています

今回で往復書簡はいったん終わります
僕のつたない質問にも丁寧にお返事くださり
山登先生にはとても感謝しています

僕が「自閉症のぼくが生きていく風景」対話編を通して学んだことは
人生の正解は一つではないということです

自閉症という障害は謎に包まれています
きっと原因を究明するための研究が少しずつ進んでいるのだと思います

現在の医療の理解を超えた脳の仕組みがあることも
やがて明らかになってくるのではないでしょうか

僕は、自閉症者が進化した人間だと信じたいと言ったことがありますが
多様な価値観こそ僕が社会に求めているものです

これまで山登先生との連載を楽しみにしてくださった皆様
どうもありがとうございました

<ホウセンカの花が咲いていました>