開催日の9月8日は、丁度白露に当り、菊の節句とも言われる日の開催でした。18号台風の接近で天候が不安定な中でしたが、28名と多くの参加がありました。
テーマ:アイルランド共和国の紹介 
語り手:ジェームス・ジレット君(阪大院留学生)
日 時:9月8日 10時〜12時 場 所:コラボ多目的ホール
ジェームス君は、たどたどしさは残るものの、正しい日本語でプレゼンしてくれました。原稿を見せてもらうと、漢字も使った全く正しい日本語の文章でした。日本人に作ってもらったのだろうというと、全部一人で書いたとのこと。日本人大学生より正しい日本語を書いているのではと思ったほどでした。
 アイルランド島は、グレートブリテン島(イングランド)の西にあり、首都ダブリンは北緯約53度に位置し、樺太の北端と同じと知ると、そんな北にあるのかと驚きます。島の全人口は約638万人、面積は北海道とほぼ同じで、政治的には北アイルランド自治領と、アイルランド共和国(人口461万人)に分かれています。
アイルランドを知るには、歴史的背景を理解してほしいと、歴史中心の紹介でした。

○石器時代
 紀元前8000年、石器時代からの遺物が残っており、当時狩猟と採集の生活が営まれていました。紀元前4500年ころから農耕が始まっています。その時代の遺跡として、巨石記念物が多く残されています。
○青銅器時代
 石器時代が過ぎ、紀元前2500年頃に、青銅製の鐘状ビーカー(理化学実験に使うビーカーと同形)文化が到来しました。これはヨーロッパに広く分布していて、共通の文化圏があったと考えられます。原料の銅はアイルランド産、スズはイギリス産です。同じ時代にアイルランド産出の金を使った装飾品が残っています。王侯だけが身に着けていたのではなく、庶民も使用していました。

○鉄器時代(ケルト文化の到来)
 鉄器時代にケルト文化は中部ヨーロッパからイギリスおよび、アイルランド島に拡がりました。この民族は島のケルトと呼ばれます。島のケルトは、イングランドとウェールズのブリトン人とに分れています。現代のアイルランド語は古代ゲール人が使った言語に由来しています。
 原始アイルランド語はオガム文字が用いられていました。オガム文字が刻みこまれた石碑は、オガムストーンと呼ばれます。UCC(ユニバーシティ・カレッジ・コーク)大学にはオガムストーンが数多く収集されています。
 当時の社会はゲール社会と言われ、基本単位は氏族で、家父長制になっていて同じ曾祖父の血を引いています。社会全体は階級制度であり、各地方には王侯が存在し、それより大きい州を治める王侯そして、その上に中央の王様がいました。社会はブレホン法で治められていましたが、これには諸権利や慣習が定められています。ゲール人の経済は貨幣はなく物々交換でした。
 古代ゲール人はスポーツも大好きで、現代にまで引き継がれていてゲーリック・ゲームズと呼ばれ、国技になっています。クリケットやにラグビーに似た競技です。海岸沿いには世界一長いサイクリングロードもあります。
○有史時代(ケルト系キリスト教)
 5世紀ごろにローマからキリスト教が伝来し、ゲール人はローマ字を使うようになりました。世界的に注目されている「ゲルズの書」は、8世紀のアイルランドで制作された聖書の写本です。ジェームス君は無宗教だそうですが、現代アイルランドでは、カソリック信者が約85%います。

○中世(ノルマン人の侵攻)
 アイルランドには多くの王侯がいますが、1166年にレンスター王侯がイングランドに倒されました。レンスターは領土を奪還したいと考え、1169年にノルマン人に援軍を要請しました。イングランドのヘンリー2世は、アイルランドに侵攻し、以来約700年間イングランドの支配下になります。
○近世〜近代(イングランドとの関係)
 1801年グレートブリテンとアイルランドの間で連合王国が成立、その100年後の1919年にアイルランドは独立を宣言、独立戦争が起きました。1922年にイングランドとの間で条約が結ばれ、自治領となります。同年北アイルランドのみ自治領から脱退し、締結された条約とアイルランドの建国を巡って内戦が勃発しましたが、自治領の状況で経過しました。1937年自治領のまゝで、イングランド総督の支配を否定し、憲法制定、国号をアイルとしました。
1949年、国号もアイルランドに復帰させ、ついにアイルランドは正式に共和国となりました。
 右下の写真は収集・保存されているオガム文字の石碑

主な質疑
Q:なぜ日本に留学したのか? 何を研究しているのか?
A:中国に留学中日本に旅行に来ていいと思った。 阪大でロボットの研究をしている。
Q:日本に来てどんなカルチャーショックを受けたか。日本食は食べられるか。

A:すし詰め電車、荷物やスマホの置き忘れに気づき、取りに戻ったらそのまま取られずにあった。アイルランドの主食はジャガイモ。海産物も食べるが総じて不味い。日本食はオイシイ。日本食で初めのころにウマイと思ったのはキツネウドンだった。その後みんなで食べる鍋料理も好きになった。
Q:米国でセント・パトリックス・デーというお祝いがある。祭日ではないが、全員緑色の服を着て、お酒を飲んで歌って踊って楽しんでいる。このお祭りはアイルランド由来と聞いている。アイルランドではどんな祝い方をしていますか。
A:セント・パトリックは、アイルランドでキリスト教を広めた聖人です。アイルランドでは祝日になっていて、同じようにお酒を飲んで楽しんでいる。
Q:アイルランドのセーターは有名で、漁師は氏族ごとに使う柄が決まっていと聞いている。理由は海で遭難した際、身元が分かりやすくするためだとか。そうですか。
A:氏族ごとに柄が違うということはない。アイルランドのセーターは質が良いので、ぜひ買われたらどうですか。
Q:高福祉政策で消費税が高いのではないか。
A:消費税は5%程度で高くないが所得税が高い。大学の授業料は無料です。大学は6校あるが全て国立で、私立大学はない。高校以下には私立があります。
Q:将来は何になりたいか。DR.コースに行くのか。日本で働く気はありますか。
A:Dr.コースにはすすまないで就職します。日本で働くかどうかまだ決めていません。

Q:ケネディー大統領の先祖をはじめ、アメリカへの移民が2百万人居るそうですが。
A:約百万人位です。アイルランドは大飢饉に見舞われ、多くの人が死ぬか、アメリカなどへ移民し、人口が半分程度になりました。その後に、主に北アイルランドにはスコットランド民族が移住しました。現在、北アイルランドが独立運動で内紛を繰返していますが、独立できていません。独立を望まないスコットランド系の人がアイルランド系の人より多いことも大きな理由の一つです。
Q:首都ダブリンは、ゲール語ならどう書きますか。
A:小学校、高等学校(日本の中学校に当たる学校が無い)では習いましたが、殆ど忘れました。ダブリンはBaile Atha Cliathと書きます。
Q:国歌を歌ってくれますか。
A:国歌の歌詞はゲール語です。忘れましたので、スマホで検索して歌います。

主な感想
 歴史の話が中心で、生活実感がわかなったが、質疑でその辺りが理解できました。
 (詳細はアンケート集計結果による)

次回開催
 日時:11月10日(火) 10:00〜12:00
 場所:コラボ2階 多目的ホール
 話題:オーストラリア、アメリカ、インドネシア、中国から留学中の4人の高校生に、出身地の文化や生活習慣について紹介してもらいます。 文責 濱崎