THE BIG ISSUE VOL.272より

東田直樹の考える日々

ずっと遠くの山を見ている人は足元のたんぽぽの
可憐さに気づきませんが、
目の前に咲いているたんぽぽを見ている人は
山の緑の美しさに気がつかないものです

このように誰もが、自分の目で見たものが
世界のすべてのような錯覚をしてしまうのではないでしょうか

どこかで泣いている人がいても、気にも止めないのに
そばで子どもが涙をこぼしていると声をかけずにはいられない
それが人間です

知らないことはどうしようもないから仕方ない
という人もいるでしょう。僕もそう思います

けれども、これが障害などの問題になると違ってくるのです
しらない人には知ってもらわなければならないし
どうしようもないでは、すまされません
僕もそう思います

助けなければいけない基準があるわけではないのに
多くの人が賛同する、それが、社会の仕組みを作る
価値判断の1つになるのでしょう

世界中の人を救いたいと願う気持ちは尊いものですが
実行するのは難しいのが現実です

だから、たとえ自閉症という障害を皆に理解してもらえなくても
僕が嘆くことはありません

山には数えきれないほどの木々が存在し
目の前の草花にも、1つ1つ名前がついています
しかし僕が、そのすべてを知ることは、ないでしょう

世界は矛盾だらけだと思うことがあります
世の中はいろいろな利害やバランスで成り立っています

できるだけ多くの人が、不満を持たず、穏やかに暮らせる
世の中を作るのが、社会の目標ではないでしょうか

僕は、自分にできる我慢は何かということを
これからも考えていくつもりです

社会は日々動いています
僕には、まだまだ学ばなければいけないことが、
たくさんあることに気づきました

今回で、僕のエッセイは終了します
これまで応援してくださり、本当にありがとうございました

<ホトトギスの花が咲きました、思い出の花です>